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「“神火 不知火”!!!」
 力強い声と共に、槍のような二本の炎が◆の目の前に走り、間一髪で、メラメラと斧槍を包んでかっさらっていった。そして、それに次いで凄まじい熱風が音をたて、ハルバードやクルーの男たち、そして◆までをも吹き飛ばした。
「うわァッ!!?」
「ウッ……!!」
 体の自由がきかない◆は、受け身が取れない。目を瞑ると、やっとの思いで片腕で顔を庇い、訪れるであろう衝撃に身を固くした。
「――っと! 危ねェ」
 しかし、◆の身体は地面に叩きつけられる事もなく、あたたかい何かに優しく受け止められた。
「――ッ!!? え、えす……ッ!?」
 痛みに耐えながらもその主を確認しようと目を開ければ、そこには数時間前にバーで酔い潰れ、ぐっすりと眠っていたエースが、何とも云えない顔で◆を覗き込んでいた。
「……平気か? ◆」
 ゴメンな熱かっただろ、と云いながらしゃがんだエースは、◆をゆっくりと地面に座らせる。
「どう、して……ッ」
 ここに居るのか、と続けたかったが、熱風と怪我のせいで上手く声が出せず、ゴホゴホと咳き込む。
「すぐに手当してやりてェが、少し待っててくれよ。あとはおれが引き受ける」
 羽織っていたシャツの裾で◆の汚れた頬を軽く拭うと、エースは立ち上がり、ハルバードが吹っ飛んだ方に目をやった。
「ひ……“火拳”ッ!?」
 かなり遠くへ飛ばされたハルバードは、指先から腕まで火傷を負っており、呻きながらよろよろと起き上がった。
 ところどころに火が残る地面にはクルーたちが転がっていたが、“その姿”を目にすると立ち上がれずとも驚きの声を上げた。
「“火拳のエース”!?」
「何でこんなとこに……!!」
「“四皇”がこの島に居るってェのか!?」
 白ひげが付近に居るわけではないと◆は知っていたが、何故ここに居るのか――途切れ途切れになる意識を何とか保ちながら、助かったと云う事よりも、エースにこの場を見られたと云う事に困惑、混乱する。
「“火拳”があの小娘を庇う理由が、おれは知りてェな……!」
 何故だ、と呻くハルバードに、エースは厳しい表情を浮かべた。
「“おれ”はお前らに恨みは無ェ。けどよ、◆に大怪我させたって事で、悪ィが丸焼きになってもらう……!!」
 ゴウッと、エースの片手が炎に変わる。
 それに照らされた顔は、先程◆が見たクルーたちの凶悪なそれとはまるで違い、“海賊の高み”と――そして“怒り”に満ちたものだった。
 “白ひげ海賊団二番隊隊長”の名を背負うにふさわしい“覇気”を前にして、懸賞金わずか4800万ベリー相当のハルバードは情けない声を上げ、「待ってくれ!」と慌てふためいた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 先に手ェ出したのはそっちなんだぜ!? それに“海賊”がどうして海賊つぶ――!!!」
「“火拳”!!!」
 自己弁護も虚しく、ハルバードとその一味は、巨大な炎と化した拳に岩場ごと飲み込まれていった。
 そして、その光景を辛うじて確認した◆は、焦げ臭い匂いと熱気が漂う中で、最後の意識を手放したのだった。




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