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(逃げ道はない、か……逃げる気も、力も……もうないけど……)
 目だけで周りを見回す。かがり火で作られる影のせいで、彼らの表情がより凶悪に見える。
「だからせめて、ジワジワ痛めつけてやろうってんだ。なァ、お前らも汚ェやり方だぜ? 脚ばっか狙ってよォ」
「何云ってんだ船長、これは仇討ちだぜ!? それに、人を痛めつける時は同じところを何度も狙うのが一番だって、アンタが云ったんじゃねェか」
 ◆を取り囲む屈強なクルーたちが、声を上げて笑った。
「あァ、そうだったか……ハハハ! その苦痛の頂点が、おれにとっちゃァこの“串刺し”よ! すぐに殺しァしねェ、安心しな」
 ハルバードの斧槍は金で出来ているのか、かがり火に照らされてギラギラと輝く。重量があるであろう、その得物を易々と肩に担ぎ、◆に近付く。
「……ハァ……ッう……!」
 自然と後ずさろうとした◆だったが、多量に出血した足はもつれ、もはや歩ける状態になく、遂に地面に膝をついてしまった。
 カトラスを突き立て、それに掴まろうとするも、腕にも力が入らず、カシャンと云う音を立てて得物が転げる。
「ハハハハ! いいザマだな!!」
 ゲラゲラと笑うハルバードに続き、クルーらも◆の姿に笑う。
「くそ……ッ」
 ◆の顔は土埃と血で汚れ、髪も乱れ、深手を負った足。足以外も殴打や斬撃を受けている。昨日負った傷も開いてしまった。
 敗北を決したも同然の状況に、◆は薄まる意識を必死に保ちながらギリリ、と唇を噛んだ。
「串刺しにする前に一つ訊いておこうか……てめェは何故、おれたちを襲った?」
 斧槍の先――槍が◆の鼻先に突き出された。
 ハルバードを強く睨みつけ、◆は乾ききった喉から声を搾り出す。
「それは……アンタたちが“海賊”だから……ッ、海賊はみんな……しねばいい、ッ……!」
 云い終えて咳き込むが、その振動で痛みが生まれ、声を押し殺して耐える。
「…………へェ? なるほど、“海賊潰し”はてめェで間違いねェな。海賊を毛嫌いしているようだが、そんなてめェは、おれに手も足も出せずにここで終わる……海賊を潰そうなんざ思わなければ、こんな事にはならなかっただろうよ」
 せいぜい後悔しろ、と笑ったハルバードは得物を◆の前から退け、そのまま構える。
(後悔……なんてしていない……死ぬその時まで、海賊に……“海軍”に……憎しみを思い知らせようって決めたんだから……!)
 ◆はカトラスを振るえずとも、ハルバードを睨み続ける。その死を目前にしてもなお、凛としている佇まいにたじろいだハルバードは、強く舌打ちをした。
「チッ、生意気なガキが……! 海賊の世界はなァ、そんなに甘かねェんだよッ!!!」
 声を上げ、磨かれた槍が風を斬り、◆に迫った――
(でも、私がしんだらログポースが無くなっちゃう……エースが困るかもね……)
 ――◆の脳裏に太陽のような笑顔が浮かんだ、その時だった。

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