02
「――ひと……?」
 死んでいるのかと思った。
 この嵐の中で道端に倒れているのだから、そう思っても当然だった。この時代、何処に人が野垂れ死んでいても不思議ではない。
 うつ伏せている男は腹から肩にかけてが水溜まりに浸かっていた。顔まで浸かっていれば溺死しているだろうが――娘は、その男の首元にそっと手を当ててみる。弱々しくもちゃんと脈はある。体が怖ろしく冷たかったが生きてはいるらしい。
 さて、この男をどうしようか、助ける義理も無いし――と、ランプでその男を照らしてみると、背中に見覚えのある模様があるのに気付いた。
「――ッ!! これって……!!」
 そこには大きなタトゥーが施されている。
「し……白ひげの、マーク……!?」
 海賊王に一番近い男と云われる“白ひげ”。その白ひげの“息子”である事を表すタトゥーが、男の背中に刻まれていた。
「…………」
 しばらくそのタトゥーを見つめていた娘だったが、雨で頬に張り付いている髪を耳にかけると、リュックを地面に置いて自分が着ていたシャツを脱ぎ、男の背中にかけた。
「お、も……っ」
 男の片腕を自分の肩に回して持ち上げ、リュックを手に持つ。雨のせいもあり、かなり重たかったが、娘は男を引きずりながら灯りの方へと歩いて行った。



 エースが目を覚ましたのは、覚えのない部屋だった。
「……? ここは……うォッ、腹減った!」
 酷く腹が減っている。体もダルかったが、とりあえず現状把握しなければならない。
 エースはゆっくり起き上がると、広い部屋を見渡してみる。どうやら宿の一室のようだ。
「……あー食いモン、食いモン無ェかな……」
 ベッドから出ると、いつもの黒いハーフパンツを履いていなかった。つまり下着一枚である。
「……」
 この状況に首を傾げつつも、部屋の中心へ向かう。
 頭を掻きながら、ペタペタと歩いていくと、ソファに誰かが寝転んでいるのに気付いた。
 細身のカトラスを抱いて寝息を立てているのは、自分と歳が同じくらいと思われる娘だった。長い睫毛が血色の良い頬にうっすら影を作っている。
 疲れて眠っているように見えたので、エースは無理矢理起こすのは可哀想だと思ったが、どうやらこの娘に助けられたみたいだし、黙って部屋を出る訳にもいかない。しかも自分は下穿き一枚だ。
「……朝、なのかねェ……?」
 自分の意識がハッキリしていたのは確か夜だったと思うので、そんな言葉が出た。
 明かりが漏れる部屋を見渡し、窓へ向かうとカーテンを開ける。

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