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「何食おうか? せっかくだ、◆の好きなモン食いに行こうぜ」
「うん、ちょっと見て回って、それで二人で決めようよ」
 それまでとはまるで違う言葉は、酷く棒読みなのだが、エースはウンウン! と頷くばかりである。
(単純な……海賊って大抵こうだから……バカみたい)
 心の中で冷たく呟きながら、◆はエースの腕に手を回した。
「じゃ、行こ」
「おう!」
 ご機嫌で帽子を被り直したエースと、若干の緊張を浮かべた◆――対照的な二人は、夜の町へと繰り出して行くのだった。



「あららら……お連れさん、潰れちゃったのかい?」
 バーの店主の声に、◆はコンパスから顔を上げた。
 隣にはエースが、軟体生物のようにカウンターへへばりついており、健やかな寝息をたてている。
「お嬢さんも、強い酒をどんどん飲ませちゃってたもんなァ……でもまあ、お嬢さんみたいな美人にすすめられたら断れないか」
「……ふふ」
 ◆は肩をすくめて、コンパスをいつものように服の下へと掛ける。
 上機嫌なエースと共に町の様子を見て回り、ハルバードたちの居る岩場からなるべく遠い――海岸に位置しないこの店へと入った◆は、とにかくエースに強い酒を飲ませた。終始柔らかい物腰で酒をすすめれば、エースはとにかく飲みまくり、素敵な酔い潰れ男の出来上がりだ。
「もう、困った人……私、そんなにお酒は飲めないし、一人で居ても退屈だし……先に帰ろうかな。マスター、この人ここに置いて行っていい? 最近疲れてたみたいだから、寝かせといてあげたいの」
 お代は払って行くから、と席を立ち、自分の上着をエースの肩に掛ける。
「起こすのも可哀想だ。全然それは構わないけど、一人で帰るのかい?」
「すぐそこの宿だから大丈夫。この人が起きたら、私は先にホテルに戻ったって伝えて」
 にっこりと愛想の良い笑みと共に、金を払い、恋人同士の演技をするように、エースのハネた頭を撫でた。
「気を付けて帰りなよ。今この町にはタチの悪い海賊と、その海賊を狙ってる凶悪な奴が居るんだ、海の方は近寄らないようにね」
「……うん。じゃあ、ごちそうさま」
 店の外に出ると、◆はフウッと息をついた。
「“凶悪な奴”か……一般人には手は出さないから安心して欲しいけど」
 そう云いながらも、表情を落とした◆は時間を確認する。そろそろ日をまたぐ時間が迫ってきていた。
「あの様子じゃ、エースは起きないだろうし……ひとまず安心かな」
 あとはハルバードの停泊先に向かうだけ。
 しかし、町を見回って耳にした「今夜、海賊潰しとハルバードがぶつかる」と云う話――それを話していた島の人間にも気を付けて向かわねばならない。
 “海賊潰しは女一人らしい”と囁かれている中で、得物を差した自分が岩場へ堂々と向かう事は出来ない。まさか“海賊潰し”を捕まえようなどと思う連中は居ないだろうが、野次馬が居るとも知れない。
(……時間はあまり掛けたくないけど、少し遠回りして、隠れながら向かうか……)
 人目に付かぬように、路地裏や茂み、雑木林などを早足で進みながら、◆は岩場を目指した。




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