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 部屋を出る前に云った通り、エースは夜の七時頃にホテルに戻ってきた。
 昼過ぎにベッドに入った◆は一度も起きる事なく、ぐっすりと寝入っていたが、エースが部屋のドアを開ける音で、ハッと目を開き、おもむろに体を起こした。
「ただいまー……って、◆、ずっと寝てたのか!?」
 外の明かりが入ってこない部屋なので、昼なのか夜なのか判断しがたい。薄暗い照明をつけたままのメインルームに入ってきたエースは、帽子をテーブルに置き、部屋の時計を指差した。
「もう七時だぜ、◆。腹減ったんじゃねェか? イヤ、おれは小腹が空いたんでメシ屋で軽食はとったんだけどさ、もうグーグー鳴っちまって……」
 ハハハ、と笑っているエースを余所に、◆はベッドから下りて洗面所へと向かう。顔を洗って服や髪を直し、サーベルを手にしてメインルームへ戻ってくれば、エースが首を傾げた。
「外に行く気か?」
「……ずっと部屋に居たし、寝てたから外の空気を吸いたいの」
 本音は、日中の間にしておきたかったハルバードの様子見に行きたい――なのだが。
 体力は何とか回復しているし、少し体を動かして、“対峙”に備えたい。それに、“海賊潰し”の存在が広まっている町の様子も気になる。
「今夜は特に物騒そうだから、出歩くのはオススメしねェな」
 島をねり歩き、情報収集していたエースは、ハルバードが船を停泊させている岩場も見つけていた。そして、そこが腹を空かせた猛獣の住み家のような空気だった事、そして町も張り詰めた空気を漂わせている事も感じていた。それは、◆を一人で外を歩かせるだけでなく、自分と共に出歩く事もためらうほどだった。
 メシはルームサービスかデリバリーでさ、と云い、エースはソファへ腰掛ける。
 その様子を見つめながら、◆は一瞬考えた。
(“物騒そう”……そんなに不穏な様子なら、余計に見回る必要がある……。それに、後々私は部屋を抜け出さなきゃいけないんだし。だったら外に出向いた方が楽……酒で潰すのも、部屋だと自分のペースで飲むだろうから時間が掛かる……!)
 結局、エースと共に外へ出るのが得策なのだ。危ない策ではあるが、時間も体力も少ないのだから、手っ取り早い方を選びたい。
 そう決めた◆は、意を決してソファへ歩み寄った。
「ねえ」
 伸ばした手をエースの腕に伸ばし、羽織ったままのシャツの裾を少し引っ張る。
「◆……?」
 思いがけない◆の行動に、予想通りにエースは目を丸くする。
「あなたが付いてきてくれれば大丈夫でしょ? 一緒に外に食べに行こ」
「へっ……!?」
 エースに色仕掛けは効かなそうだし、色仕掛けをする色気も持ち合わせていないのは自覚しているが、今まで突き放した態度をしてきた自分である。その態度をほんの少しでも柔らかくして歩み寄れば、単純そうな彼なら乗ってくるのでは――と、◆は自分がエースに対して出来る最大限の笑みを浮かべた。
「……っ、お……おォ、おう! そっ、そうだな、おれと一緒に居れば安心だ、任せとけ!!」
 そして、◆の思惑に見事引っかかった二番隊隊長は、驚きつつもニカッと嬉しそうな笑顔を見せて立ち上がった。

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