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「海軍は呼ばねェのか?」
「ハルバードがおれ達に釘を刺してったからな……“海軍を呼べばこの町ごと串刺しだ”ってよ。それに、ハルバードとしちゃァ海軍に邪魔されたくねェと思うぜ。クルーの仇討ちをな」
 そうだろ? と男がエースを覗き込んだが、エースが応える代わりに腹の虫がグウーッと返事をした。
「うおっ、何てこった! ……みんな、教えてくれてありがとうございましたッ! んじゃ、おれはとりあえずメシ食わねェといけねェんで!!」
 話はそこそこに、哀しい音色を奏でる腹に手を当てたエースは、バッと礼儀正しくお辞儀をし、飯屋へ向かうべく走り出す。
「ハハハハ、食ってこい食ってこい!」
「いいねェ、若いって!」
 そんな声を背中に受け、手を上げたエースだったが、その表情は宿の部屋を出た時と同じに、やや厳しいものだった。



「――てな事があってさ。おれはその後すぐ飯屋に一直線で、そんで帰ってきたんだ」
 エースは町で聞いた事を一通り◆に話していた。
「まあいいんじゃない? 海軍が呼ばれないのならそれで」
 ◆はエースが外出している間に睡眠をとっていたが、昼前に空腹で目が覚め、ルームサービスを取っていた。少々値は張るが歩き回るのは面倒だったし、“体力は温存”したい。
 黙々と食事を取る◆をエースは黙って見つめる――やはり気になるのは小さくも多い手の傷だ。
「これ、好きじゃないから」
 ん、と無愛想に渡してきた肉を貰い、エースは小さく齧った。
「あー……のさ。そうだ、◆はどう思う? “海賊潰し”の話」
 部屋を出る前の事もあり、一方的に気まずく思うエースは、何とか会話しようと試みる。
「どうって、私は海賊じゃないし関係無いし。あ、でもあなたと居る事で海賊だと思われて狙われたら迷惑だけど」
 いつもの如く、冷たく云い放った◆は、内心ではエースを睨みつけていた。
(またカマかけようとして……分かってるんだから)
 肉を食べ終えたエースは手を拭いて酒を取り、グラスに注ぐ。
「なんか怖ェよなァ。殺すだけが目的なのか、それだったら何か因縁があるのか――確か、前の島でもそんな事があったような気がしねェか?」
「はあ。“そんな事があった”のは、私があなたに連れ去られた日なんですけどね」
「うっ……」
 エースがすまなそうに酒を口にしているのを見て、◆は溜め息を吐いた。
「……ハルバードって奴が、自船で“海賊潰し”を待ち構えてるって本当?」
「ん?」
 ◆は皿を片付ける為にソファを立ってエースに背を向けた。――これで表情は分からないだろう。
「ほら……本当に今夜“海賊潰し”って云うのが狙うのかは分からないでしょ? もう島を離れてるかもしれないのに」
「どうだろうなァ。そもそも本当に“海賊潰し”なのかも分からねェしな。ソイツがそう名乗った訳じゃねェんだし、もしかしたらそういう集団が居て、一人一人行動してるのかもしれねェし……おれの頭じゃ全然検討つかねェ」
 ハハハ、と笑うエースの声を聞きながら、◆は「はあ……」とつまらなそうに肩をすくめた。

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