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「おれ達は、その女は、最近新聞でチラホラ目にするようになった“海賊狩りならぬ海賊潰し”じゃねェかって話してたのさ」
「“海賊潰し”……?」
 海賊であるエースにとって、その言葉は酷く不吉で思わず顔をしかめてしまった。
「ああ、目撃者はほとんど居ないんだが……何しろ行動はもっぱら深夜、それに海賊の船なんざ人目のつかないとこにあるからな。だから今回みたいに、襲われたが何とか息があった奴の情報だけなんだがよ。なんと、女が一人だけでやってるみてェなんだ。船長の首は取っても海軍に差し出すわけでもねェ……懸賞金目当てでもない、一人きりだから海賊でもないみてェで」
 男は腕を組み、ウーンと唸り、その横に居る男も首を傾げた。
「何が目的なんだろなァ? ただの殺戮趣味かねえ」
 ふと、エースは周囲の人々を見回してみる。昨日の雑貨屋の女主人や、飯屋の従業員達、ゴロツキくさい奴らまで、「海賊潰しが」とか「ハルバードのクルーの話じゃ」と、恐怖の表情を浮かべながらも話し合っている。
「ん、なァ……何でオッサン達はそこまで色々と知ってんだ? その“ハルバードの船が襲われた”とか“息があるクルーの話”とかさ。それは新聞に載ってたとかじゃねェんだろ?」
 エースが疑問を口にすると、腕を組んでいた男が「ああ、それね」と答えてくれる。
「これはまだ海軍様の耳にも入ってねェ情報だと思うぜ。そんなのを何故おれ達が知ってるのかってェと、ハルバードがさっきおれ達に喚いていったからなのさ」
「そうそう! “おれの船がやられた”ってな。あれは酷ェ怒りようだった」
 そこにズズイッ、と雑貨屋の女主人が割り込んできた。彼女はエースの顔を見ると「昨日の色男じゃないかい」とニッコリ笑った。
「おばちゃんもハルバードが怒ってるのを聞いたのか?」
「ああ、そうだよ。もう大激怒! 何てったって船に残してきたクルーが全員ブッタ斬られてんだから……ついさっき、みんなが店の準備やなんかで忙しくしてる時にね、海の方からハルバード達が凄い形相で走ってくるから、襲撃に来たのかと思いきや、この事を丁寧に説明してくれたのよ、ま、怒鳴りながらだったけど」
 酒場の主人から聞いた話では、朝方ハルバードと数名のクルーは店を出たらしい。そして、数分後に船の惨状を目の当たりにし、急いで戻ってきたと云う。
「ハルバードが何でおれ達に状況を説明したかってーと、この島にその“海賊潰し”がまだ潜伏してるって考えかららしいぜ。多分、今夜はおれを狙ってくるだろうって、本人が云ってたもんな」
 エースがフンフン、と頷く。
「なるほど……オッサンやおばちゃん達を通して、その“海賊潰し”に伝えようとしてんだな――受けて立つ、って」
 人相の悪い彼らの事は、二つ名と悪い噂の少し程しか知らないエースだったが、それでも仲間を斬られた怒りはよく解る気がした。彼らが一方的にやられたのだったら特に。
 得体の知れない海賊潰しとは一体どういう人物なのか……オヤジだったら分かるかなァと首を捻っていると、女主人が「とにかく!」とエースの腕を引っ張った。
「ただの海賊狙いだったらいいけどさ、もしあたし達が命を狙われたりしたら……怖い怖い!」
 おちおち眠れやしない! と身をすくめるその肩を、エースはポンポン、と叩いてやる。

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