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 ◆も自分の分を入れていたが、その手を見ると、やはり前のように小さな傷が沢山あった――明らかに生傷が多い。
「◆……お前――」
 その時、にわかに外が騒がしくなった。
「何だ……?」
 エースはグラスを置いて立ち上がり、小さな窓から様子を窺おうとした……が、“こんな”宿なのだ、見える訳が無いし、開く事も無かった。
 この島には自分達の他にハルバードも居るし、海軍でも来たならば何か策を考えなければならない。ログはまだ貯まってはいない。
「んー……おれ、ちょっと外の様子見て来るからさ、◆はもう少し寝てろよ。どっか痛むんなら余計な」
 ソファに放ってあったシャツを羽織り、エースは少し険しい顔つきでそう云い、そっと部屋から出て行った。
「……っはあ……」
 安堵の溜め息を吐き、◆は持っていた酒をグッと飲み干す。酒でも飲めば、少しは痛みも感じなくなるだろう――いよいよ自分の失態に頭を抱えたくなる。
「何もかも、あいつが悪い……あの白ひげの息子め……!」
 もし白ひげに遭ったら文句の一つや二つ云いたいものだと、人のせいにして◆はもう一杯酒を飲んだ。
「…………寝よう」
 昨日から一睡もしていないし、夜通しハルバードのクルー達と戦闘していたし、体のあちこちがズキズキ痛む。それに今夜は――……。
 外の事は気になるが、それより何より◆は体を休めたかった。ずるずると、痛む箇所を庇いつつ無駄に大きなベッドに上がり、中に入る。
 強い酒を二杯一気に飲んだせいか、体はポカポカとし、痛みが麻痺してきた。これはいい睡眠薬だと、◆は苦笑しながら目を閉じ、すぐに眠りに落ちてしまった。
 ――その頃、エースは町へと向かっていた。
 一際大きな木が見事な紅葉を魅せている憩いの場が、騒ぎの中心部だった。
 まだ日も昇りきらないと云うのに賑やかな人々の集まりへ、エースも何気なく混ざった。
「どうも、おはようございます! みんな、こんな朝早くから何を盛り上がってんだ?」
 誰に訊ねるでもなく、エースが礼儀正しく声を掛けると、一番近くに居た男が教えてくれる。
「夜中、ハルバードの船が襲われたんだってよ」
「――襲われた? ハルバードの船が?」
 エースが予想外の言葉に目を瞬かせていると、男はエースが“ハルバード”を知らないのだと思ったらしく、「ハルバードって奴はなァ」と丁寧に説明し出してくれた。
「ついこの間、島に来た海賊だよ。懸賞金は4800万ベリー。船長の二つ名は、持っている得物の斧槍でブッ刺しちまうって云う“串刺しのハルバード”だ。そのハルバードが酒場に居る夜中の間に船が襲われて、クルーがほぼ全滅なんだとさ! 停泊してた岩場や船は惨状だって聞いたぜ」
 恐ろしいねェ、と男は身震いしている。
「へェ、そいつはまた凄いな……その船を襲ったって奴は分かってないのか?」
「かろうじて息のあったクルーの話じゃ、“女一人だった”って話だぜ」
 男がそう云うと、その横に居た男も聞いていたらしく、ウンウンと頷きながらエースを見る。

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