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「別に同じ部屋で泊まればいいじゃない、面倒くさい。紳士じゃあるまいし、何を躊躇っているわけ?」
◆としては、エースに野宿させると自分が外で活動しづらいと云う理由もあった。同室と云うのも些かやりづらいが、それでも外で鉢合わせるより宿で大人しく眠っていてくれた方が無難だ。
エースは◆の言葉に一瞬目を丸くしたが、すぐにヘラヘラッと笑った。
「ま、まァそうだよな! いや、あーいうとこに入るとなるとさ、変に緊張しちまって」
「海賊のくせに……。云っておくけど変な事したら通報するからね、海軍に」
◆はそう云いきると、未だ気が進まなそうなエースを尻目に“豪華絢爛”な宿へと入っていくのだった。
「はァ……やっと寝た」
腰元に獲物を差しながら、ソファで潰れているエースを見下ろす。
今日は徹夜するだの、やっぱり野宿するだの、なかなか寝支度をしないエースを見かね、◆が酒をガブガブ飲ませたのだ。酒に弱いワケでは無いだろうが、島に着けばやはり疲れが出るのだろう――小気味よいほどアッサリとダウンしてしまった。
「さ、私はひと仕事行きますか」
二人同時に入らなければならないシステムの宿だが、一人で出るのは構わないらしい。“ソウイウ人”が仕事を終えて帰ったりする――自分も受付の従業員にそう思われているのかなと思いながら、特に気にせず宿を出た。
いつも通り、船に居るクルーから狙うつもりで、◆は海岸方面へと急ぐ。エースが寝付くのが遅かったせいで、時間はとうに頃合いを過ぎている。
日中、ほぼエースと行動していたが、ハルバードの船がある場所には目星を付けておいた。そして、海岸から少し奥まった岩場には予想通り、海賊船が停泊していた。海賊旗はドクロに斧槍――確かにハルバードの船である。
「……見張りは五人か」
船から少し離れた場所では火が焚かれ、男達が酒を飲んだり武器を磨いたりしている。なるべく船内のクルーには不意打ちをかけたかった◆は暫し思考を巡らせた。
見張りの数人と剣を交えれば騒がしくなり、船内のクルー共がそれに気付いて一斉に攻撃してくるだろう。それは面倒だし、危うい運びだ。
こういう事態に一人と云うのは難しいものだと思う。もし二人組ならば、一人が囮となり、離れた場所で声を上げるなどして注意を引き、その間に船に乗り込む事も出来るが――。
(そんな事考えても仕方無い……)
岩場をどう見渡しても、見張りの隙をついて船に上がれる箇所が見当たらない。これはもう、正面突破しか無かった。
「よし……!」
◆はいつものように目を閉じ、深呼吸をした。
また一瞬だけ、エースの笑顔が浮かんだが、そんな事は気にせず得物に手を掛け、焚き火の赤色へと一直線に駆けていった。
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