01
 おれがコンパスを失くしたのは偶然か必然か、どっちだろうな。
 ――まァ、どっちでもいいんだ、そんなの。
 だって、また聴かせてくれるだろ?
 気のままに口ずさむ、お前の歌をさ。










迷子のコンパスのアンセム




















 日付が変わった頃。
 嵐の中、港からの道を大きなリュックを背負った娘が、泥水をパシャパシャと跳ねさせながら走っていた。
 息を切らせど、その表情は嬉々としている。
(今日の収穫は上々……!)
 質のいい宝は手に入り、また一つ海賊を潰してやれた。こんな嵐の中、小舟で近付こうなど考える者は居ない――そこを突き、まんまと忍び込んだ。
 虚をつかれた海賊共は自分のカトラスの餌食になり、残った数人のクルーを脅して、拠点のこの島まで船を進ませたのだ。
「海賊なんていなくなればいいのに……」
 明日にでも、島の警察が海賊船に気付いて海軍を呼ぶかもしれない。が、それはてんで問題では無かった。彼らが船に乗り込んだ時には脅したクルーも皆、こと切れているだろうし、自分の正体が割れる事は無い。
 ぬかるみに足を取られないように気を付けながら、ずぶ濡れの娘は町へ向かう。濡れても泥が跳ねても気にならなかった。
「宿は何処だったかな……」
 やがて、遠くの方に豪雨に掻き消されそうな小さな灯りが見えてくる。娘は走るのを止めて、ゆっくり歩きながらホッと息を吐いた。
「ん、……?」
 ふと、足元に何か転がっているのに気付いて、足を止めた。
 暗闇で、しかも雨が容赦なく降り注いでいるので、目を凝らしてもよく見えない。娘は腰に付けていたランプを取ると、そっと足元を照らしてみた。

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