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「へー! ◆の母さんかあ……!」
 母・ルージュは自分を産んですぐ死んでしまった――エースには母親の記憶など勿論無い。だから、そんな“母親”との話が羨ましく、また微笑ましい。
 目を細め、しきりに頷くエースに◆は肩をすくめて、もう一度カップを取る。そして何度か咳払いをし、動揺した自分を落ち着かせる様に紅茶を啜るのだった。
 食事を終えてからは、探索はそこそこにと宿を探し始めた二人だったが、なかなか空きが見つからなかった。
「今は秋島の秋真っ盛りだからね、観光客が多いよ」
 三軒目に行った宿も空きが無く、落胆した二人を店の主人が困った様に笑う。
「海賊の姿も見掛けるもんな。部屋を空けろと脅されたら、そりゃ断れないし……貸切のところも多いんじゃないかな」
 なるほど、とエースが腕組みをする。
「空いてそうな宿とかって分かるか? 少し高くても構わねェ」
 そう云ったエースの横で「今度は泊まり逃げする気か!?」と◆が疑いの眼差しを寄越してくる。それに苦笑しながら、主人の言葉を待った。
 主人はウーン、と唸っていたが思いついた様に笑った。何故かニヤリと。
「この通りのもっと先にもう一軒、宿があるよ。少し高いけど風呂もベッドも豪華だとか」
「そっか! 助かったよ、ありがとう!」
 エースは気持ちの良い礼を云い、出口へと駆けて行った。急がなければそこも埋まってしまうかもしれないと思ったからだろう。
「……?」
 ◆はそんなエースに手を振る店主をチラリと見た。その何か含んだ様な笑みに訝しむものの、エースを見失うのも困るのですぐに宿を出た。
 二人は通りを急ぎ足で進んだが、進むにつれてその足のペースがダウンしていった。
「あーっと……。もしかすっと、あそこに見えるアレがその宿だったり……するのかねェ」
「もしかしなくてもアレだと思うけど」
 ペースダウンの原因は目の前に見えてきた“豪華絢爛な建物”だった。キラキラと輝くネオン、何処ぞの国の城なのかと思う外装――どこからどう見ても、アレは“ソウイウ場所”だ。
「はあ、だからか……さっきの店主の顔つきは」
 ◆がゲンナリと溜め息を吐くと、エースは気まずそうに襟足に手をやる。
「あの、さ……◆が良ければおれは野宿でも構わねェし」
「野宿は嫌。秋島の秋だし、結構寒いもの」
「あー、じゃあ◆だけ泊まれば」
「あなた、ああいうとこ入った事無いの? 私は一人で旅してた時に、今みたいに宿が無くて仕方無く入ろうとした事があるけど、一人じゃ泊めさせてくれないよ」
 澄ました顔で◆がそう返していくと、エースは更に頭を抱えた。
「じゃあ、◆と一緒に入って……こっそりおれが出てくとかは!?」
 何をそんなに悩んでいるのだろう、と◆は首を傾げた。
 ――まだお互い慣れてねェしな、二つ部屋を取った――
 と、最初に宿に泊まる時は云っていたのに。慣れたら同じ部屋でいいだろうと云う考えだと読み取れる言葉だったが。

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