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「◆、待たせたな! 美味い店の場所聞いたから、とりあえずメシ食おうぜ」
 例の如く、シャツを羽織ったエースが店から出てきた。
「……ログポースは?」
 ◆が冷たく質問すれば、エースはウッと云う顔をした。
「すまねェ、無かった」
 ログポースが品揃えとして無いのはエースのせいではないのに、肩を落として“自分のせいだ”と云う風に謝る。
「そ」
 短く◆は答え、歩き出す。エースもそれについて来ようとしたが、一瞬だけ足を止め、後ろを振り返った。
「アイツら……」
 その小さな呟きを聞こえない事にして、◆はそそくさと歩いていく。それに気付くとエースは早歩きで◆に追いついた。
「人相の悪ィ海賊が居るな……確か二つ名は“串刺しのハルバード”」
 声を抑えたエースは険しい顔になり、禍々しい単語を口にした。
 やはり少しは名の知れた海賊なのだ、と◆は後ろをチラリと見る。
 海賊達はこちらに気付いていない様だ――こちら、と云うよりは“火拳”にだが――そして、エースもまた、◆が“ハルバード”の名を既に知っている事には気付いていない。
「ま、そんな事よりメシだメシ! ◆、早く行こうぜ!」
 二人は彼らの目に留まる事なく角を曲がり、飯屋を目指した。
「――そういやさ、◆」
 飯屋に着き、エースはいつもの様に大量に注文し、ガツガツ食べては寝て、起きたら続きを噛み、と思ったら寝ると云う繰り返しをしてのけた。
 腹も充分に満たされた頃、エースは思い出した様に口を開いた。
「何?」
 食後の紅茶を手に取り、◆は窓の外を眺めつつ応える。
「お前、歌うめェんだな!」
「ッ!!!」
 その途端、◆は目をまん丸にし、大きく肩を揺らした。そのせいで、危うくティーカップからお茶が零れるところだった。
「何でそんなに驚いてんだ?」
 エースは首を傾げる。
 いつも冷静な筈の◆だが余程驚いたのか、そのままの姿勢で固まっていて、頬はほんのり赤く染まってもいる。そんな◆を見るのは勿論初めてで、エースは可笑しそうに吹き出した。
「どうしたんだよ。ホラ、こないだ歌ってただろ? おれは知らねェ曲だったけどさ、すげー心地良いって云うか……ガキの頃の事とか何でか思い出してさ。うめーなーって思いながら聴いてたんだ」
「き、聴こえてたとは、思わなかった」
 やってしまった、と云う顔をした◆はやっと動き出し、ゆっくりとティーカップを置いた。
「船の音に掻き消されそうだったけどな、ちゃんと聴こえたぜ? な、あれ何て曲なんだ?」
 ニコニコと聞いてくるエースを直視出来ずに、◆は目を逸らす。
「きょ、曲名なんて知らないし、無いと思う……私の母親がよく歌っていたものだから」

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