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「……」
 エースもまた気まずい思いのまま、ストライカーを走らせていた。
 肩に乗る◆の手に妙に緊張してしまい、体が硬くなっているのが分かる。
 重苦しい空気はエースは大の苦手で、仲間達と居る時は何も無かったかのように話し出すのだが、今回はそんな風に振る舞えずに居た。ひたすら船を走らせる事に集中して、水平線を睨み続ける。
「…………」
「…………」
 そんな状態で走り、一時間も過ぎた頃だろうか。
「……、」
 声が聴こえてきて、エースはぴくりと肩を揺らした。
 澄みきった空のような――それは◆の声だった。
 ストライカーが海を斬る音に掻き消されそうになりながらも、それはエースの耳にしっかり届く。何か喋っているのかとも思ったが違う。メロディーのついた言葉、歌だ。知らない歌だったが、その歌声は心地良く、今までわだかまっていた空気や気持ちを解してくれる。
「……」
 エースがまだ悪魔の実を口にする前――10歳くらいの頃だ、ルフィやサボと共に川へ飛び込み、光で揺らぐ水面を見上げた時の事をふと思い出した。その直後、当たり前だったがルフィが溺れて、サボと必死で岸に押し上げ、クタクタになった所にトラが現れ、てんやわんや……。
「ふ……っ」
 昔を懐かしみ、一人笑ったエースは同時に何故か切なくなる。◆の歌声がそうさせるのか、でも悪い心地ではなかった。
 そして普段突っぱねた態度を取る◆が、こんなにも綺麗でいて儚い声で歌うのかと思うと不思議な気持ちになる。今、振り向く事は出来ないが、◆はどんな表情で歌っているのだろう。何を思って歌い出したのだろう。
 ――やっぱり、◆はタダモンじゃねェ……!
 ニッと◆に気付かれぬように笑うと、エースは爽快な速さで次の島を目指すのであった。



「“ログポース”? ああ、うちには無いねえ……そう簡単に仕入れる事が出来ないんだよ。すまないねえ」
「いやァ、貴重なモンだって知ってるからよ。それと、おばちゃん、美味いメシ屋知らねェ?」
 次の島は秋島だった。
 エースが雑貨屋の女主人と話している間、◆は店の外で町を彩る紅葉を眺めていた。と、視界の端に海賊らしき輩が映る。
「……」
 横目で彼らを追いながら、鞄の中から折り畳んだ紙の束を取り出す。
 それらは◆が情報として持っている“手配書”だったが、その内の一枚を引き抜いて彼らと写真とを見比べてみると、先頭を歩く男が一致した。――柄が長く、先端は槍になっている戦斧を背負った男が船長だ。
「懸賞金……4800万か」
 前回の海賊共より金額が高い。が、それだけ知名度もあるのだろう。海賊共に“見せしめ”をするには知名度の高い海賊を潰すのが手っ取り早い。
「……」
 『DEAD OR ALIVE』の下に書かれた数字と睨めっこをしていると、エースが礼を云っているのが聞こえ、素早く手配書を鞄にしまい込んだ。

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