85
「だろうな」
 すると、◆は自分がお見舞いしたパンチを思い出したのか、手の甲を擦りながら小さく息を吐く。
「直接の原因は私なのに……迷惑掛けちゃった」
「ンなの気にする事無ェ。白ひげ傘下ってだけで、因縁つけられるのはよくある事だ。姐さん、“躾けてやった”って笑ってたぜ?」
「……“氷の魔女”、綺麗な人だったね」
 そんな呟きに、エースは軽く頷く。
「あァ、でも怒ると怖ェ! それこそ姐さんの砕氷船の如しだ」
 オヤジを云い負かす事もあったんだぞ!? と大仰に語ると、◆は可笑しそうに眉を寄せた。
「――そう云えば、エース、顔色が良くなってる」
 よく眠れた? と、訊ねる様子は、ホワイティベイとの会話について、これ以上言及する気配も無く。エースはホッと息を吐いて笑った。
「ん、おかげで頭スッキリした。ありがとうな……ってあァ、腹減ってんだったおれ……」
 安堵した事もあり、へなへなと腹を押さえる。
「やっぱり。お腹空いたから起きたんでしょう? お昼には宿から出てくると思ってた」
「よく分かってるなァ、◆。おれァもう、空腹の高みに辿り着いちまったかもしれねェ……」
「なにそれ」
 ◆はクスッと小さく微笑み、通りの先を指差した。
「あっちにお店があったから、行こう」
 ホワイティベイのおかげで、変装などせずに、いつも通り行動出来るのは、非常に楽である。しかし、エースはそれ以上に、何も気にせず、彼女と二人で歩ける事が嬉しかった。
 そして――
(“近いうちに帰る”……か……)
 本船を離れ、こうして楽しく過ごす事に、後ろめたさを覚えてしまう。
(おれが……二番隊隊長がするべき事……)
 不意に、白ひげの豪快な笑い声が聴きたくなり、らしくねェなと首を振る。
 そして、その隣でも。
(ログポースが手に入るって、エースに教えてあげないと……でも、どうして、今は云いたくない)
 ◆が、口を開いては閉じるを繰り返していた。
「ねえ、エース……好きな食べ物って何?」
「なんだ、突然だな? 今は腹減ってるから、なんでもうまいと思うぞ」
 昔は熊鍋が好きで――と、懐かしそうに語る彼の横顔を見ながら、◆は力なく笑うのだった。




 ギラル島内では、“火拳”が居る事は、すぐに知れ渡った。
 “海賊潰し”と活動中というのも、多くの人は知っていたため、エースの隣を歩く◆の顔も割れる事となった。
 島の基地に海軍が不在で、また、彼らが現在慌ただしくしている事もあり、通報の心配はないだろう。
 しかし、店で食事をとっていると、何やらコソコソ、チラチラと居心地が悪い。エースは慣れている事とは云え、二人で気持ちよく飯が食えないのは嫌だからと、食材などを調達し、静かに宿で過ごす事にしたのである。
「――“四皇の小競り合い勃発、後半の海荒れる”……ねェ」
 ホワイティベイに貰った新聞を広げたエースは、ソファに凭れつつ、記事に目をやる。
 そこには、白ひげがとある海域で海賊と交戦した事、新たに確認された同盟や、活発化する“後半の海”での海賊たちの様子が書かれていた。

- 85 -

|→


←zzz
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -