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「アンタは責任感が強いからね、今の任務も大事なんだろう……だから、マルコは戻ってこいとは云わないかもしれない。でもさ――」
「解ってる」
 云いづらそうに淀む彼女に、短くそう応えた。
「…………」
 すると、ホワイティベイは、エースの黒い瞳を真っ直ぐ見つめたのち、力を抜くように息を吐き、メインストリートへ視線を移した。
「この先の島……バシーオ島って云うんだけど、そこには軍艦が何隻も向かっているらしいよ。ここへ来るまでに、あたしも何度か見かけた。もし先を進むのなら、気をつけな」
 単独任務中なら尚の事、と云う彼女は、納得の行かなそうな顔をしていた。本船を離れている事も含め、無茶をしがちな“火拳”を心配してくれているのだろう。
「ありがとう。姐さんたちもな……あァ、もし、オヤジに連絡することがあったら、ここでおれに会ったと伝えてくれ。……“近いうちに帰る”、ってのも……ついででいいからさ」
 ニッと笑ってそう云うと、ホワイティベイも、しょうがないね、と笑って頷き、マントを翻す。
「さて、そろそろ発つよ。あたしたちの進路は、バシーオじゃないから、ここでお別れだね」
 作業を終えたクルーたちが、「じゃあなエースちゃん!」「隊長、また!」と、口々に声を掛け、路地を出ていく。エースも手を上げ、それに応えた。
「またな、ホワイティ姐さん。定例会で会おうぜ」
「フッ、くれぐれも無理は禁物だよ、エース隊長!」
 連れの女の子にもヨロシク! とウインクした“氷の魔女”は、軽やかに去っていった。
 それを見送ると、エースは皺が寄ってしまった新聞を見つめ、長い息を吐いた。
「…………腹減ったな」
 これ以上の空腹は危険である。
 路地の入口にできていた人集りは、疎らになっており、エースの姿に「火拳!?」と気付く者も居たが、気にせず通りを進む――と。
「エース」
「ッな、え、◆!?」
 そこに立っていたのは◆で、エースは心底驚き、固まってしまった。
「いいッ、いつからそこに居たんだ!?」
「少し前……海賊同士のケンカだって聞いて、慌てて来たの」
 覗いた時にはもう、片方が伸されてたけど、と肩をすくめる。
「様子窺ってたら、まさかのエースが上から降りてくるから。びっくりした」
「お、おれもビックリしたぜ、はは……」
 歩き出す◆に付いて行きながら、彼女が“会話”を聞いていたかが気になり、エースはあははァ、と適当な返事を繰り返す。
「騒ぎに気付いて来たんだが、ケンカは終わってるとこだった。そしたら、どっちも知った奴らだったんで……」
 だからちょっと話をしてたんだ、と◆をチラリと見る。
「そう……あの人たち、見送らなくて良かったの?」
 海岸へ向かって行ったよ、と云う言葉に、
「いいんだ。あれはウチの傘下の姐さん、“氷の魔女”ホワイティベイ」
 と答え、先ほど潰されたマインの事を思い出した。
「さっきの騒ぎは、“白ひげ傘下”である姐さんに、“弩のマイン”がケンカ売ったのが発端だったらしい。理由はおそらく、“おれ”だろう」
「じゃあ、あそこに積み上げられてたの、ちょっと見えたけど、やっぱりマインたちだったんだ……ゆうべ、白ひげの息子相手に揉めたから、その腹いせにって事?」

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