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「そうだ。アンタ、連れが居るんだよね、女の子の」
 “海賊潰し”だったっけ、と腕を組む彼女の背後では、そのクルーたちが、マイン一味を路地脇に片付け、一般の方の邪魔にならぬよう作業している。
「ああ、イイヤツなんだ。クールだけど、可愛いとこもあってさ――あ! なァ、ソイツの黒電伝虫、貰ってもいいか?」
 その中に、“趣味が盗聴”と云っていた男が居る事に気付き、エースは駆け寄ってしゃがみ込む。
「構わないよ。ウチにも一つあるし、持っていきな」
 白目を剥いている男の腕から、黒電伝虫を外しながら、そばに寄ってきたホワイティベイを見上げた。
「助かるぜ……そうだ、ついでに昨日の新聞って持ってるか?」
「昨日の? ああ、確か――」
 彼女がクルーの一人に声を掛け、該当する新聞を腰に差していたクルーが返事をする。
「オヤジさんの件、だよね」
 クルーから新聞を受け取りつつ、ホワイティベイはそう云った。
「……おれ、何も知らなくてさ。四皇がどうのってヤツ、コイツらが話してるので知ったんだ」
 黒電伝虫を奪ったエースは立ち上がり、それをポケットに仕舞い込む。
「…………エース――アンタ、こんなとこに居ていいの?」
 カサリ、と新聞を差し出し、彼女は静かな声で訊ねた。
「あたしも、新聞の記事以上の事は、まだ知らないんだけどね」
 と、エースが握った新聞に目を落とす。
「……オヤジさんを狙った海賊共と、ちょっとした小競り合いになったんだってさ。相手は小物っちゃ小物だけど、それに触発されて、“四皇”に手ェ出そうって輩も増えてるらしいよ。オヤジさんとこだけじゃない、“赤髪”や“ビッグ・マム”のとこも、周辺は騒がしいって聞いた」
 あたしたち傘下も、“こういう事”が増えててね、と息を吐く。
「そこそこの奴らで組んで、海賊同盟として、討つ算段つけてるのも居るって話」
「同盟、か……」
 共通の目的のため、今までいがみ合っていた海賊同士が手を組み、艦隊を率いたりし、格上の敵を倒す事も珍しくはない。
 白ひげ海賊団も、今まで幾度となく、そんな輩を屠ってきたわけだが――
「二番隊の隊長が不在ってのは知れ渡ってるし、今ならイケるとでも思ってんだろうね」
 甘い甘い、とホワイティベイは帽子を被り直した。
「どうせ“王”に辿り着く前に、隊長たちに木っ端微塵にされて終わりだよ。そんな事、アンタがよく解ってるだろうさ」
 不敵な笑みを浮かべた彼女は、しかしその長いまつ毛を伏せる。
「けど……心配と云えば心配だよ、あたし“も”」
「……あァ」
 現在の白ひげの身体は、元気そのものと云うわけではない。毎日毎日、検査と点滴と投薬と、そして酒で成り立っている、“世界最強”の座。
 隊長会議では、しばしば議題に上る“オヤジの体調”。その際、云い争いはしょっちゅうで、時には殴り合いに発展する事もある。皆で黙りこくって、悟られぬようにこっそり洟を啜ったり、オヤジがしぬわけねェだろ! と無理して笑い合ったり。
 それは、白ひげはおろか、16小隊のクルーたちも知らない事であった。
「……オヤジ……」
 エースは、新聞をクシャリと握りしめた。

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