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 探索をしてから街へ向かった◆とは違い、食事を求めて街に直行する。昨晩着いたばかりで、地理もまともに把握していないが、何せ彼は、初めて訪れる土地でも、メシ屋の場所は絶対解ると云う――弟と同じ――能力の持ち主である。
 切なく鳴く腹を押さえつつも、周囲への警戒は怠らない。けれど、何があっても対処出来る自信も力もある。“それ”が現れているのが、背中のタトゥーを隠すだけのシャツであった。
 その余裕ぶりによって、“白ひげの息子”はいつでも、誰にも気付かれる事なく、悠々とメインストリートを闊歩していた――と。
「……でけェ音がしたな……」
 さっきからやたらと賑やかだなァ、くらいに思っていたが、段々と穏やかではない音も聴こえてくる。複数の男の大声や、何かが壊れる音、刃物が擦れる音などなど、おそらく“カタギ”のケンカではない。
 音の出どころは少し先の路地。その入口には、あちこちから野次馬が集まっている。自分もとりあえず様子を窺おうと、手頃な建物の屋根に登り、現場へ向かう。
「一体何が起きてんだ――って、ん? アイツらは……!」
 路地を見下ろす頃には、既に騒ぎは収まっていた。そして、土埃の中に立つ“勝者”の姿を見て、アッと声を上げた。
「よーォ! 姐さん!」
 そう云って屋根から飛び降りると、“彼女”が振り向く。
「ああ、エース隊長じゃないか! 久しいね!」
 勇ましい笑みで手を上げたのは、白ひげ海賊団の傘下の一味、“氷の魔女”ホワイティベイだった。
「こんなところで会うとはね。ここらの海域に居るってのは、新聞で目にしてたけど」
「そりゃァおれの台詞だ。姐さんがファースト・ハーフに居る事自体、珍しいじゃねェか」
 白ひげ傘下の海賊は、主にグランドラインで航海をしており、またその殆どが“後半の海”に集中していた。それは、“白ひげ”の元にすぐ駆けつけられるように――すなわち、緊急召集に即応じるためであった。
「ウン? あたしの船は、いつでも何処へでも行けるから、心配する事ないよ。ここに立ち寄ったのは野暮用でね」
 彼女はそう云うと、持っていた得物をカシャンと腰へ納めた。
「そうか……でも、どうして“コイツら”と?」
 エースは、足元に転がっていた大きなクロスボウと、その脇の大男を覗き込む。
「“弩のマイン”だろ? 何かあったのか」
 そう――道端にノビていたのは、昨日ひと悶着あった海賊−マインだったのだ。
 ウェーブがかったロングヘアをかき上げ、ホワイティベイはフンと笑った。
「いーや、何も無いよ。ただ、あたしたちが“白ひげ傘下の”って判った途端、ケンカを売られてね。だから、ちょっと躾けてやったんだ」
 肩慣らしにもならなかった、と首を振る様子に、満足げに頷くエースである。
「さすが、ウチの傘下だなァ」
「でも、隊長こそ珍しいじゃないか、シャツなんか羽織って、日焼け対策?」
「あっはは……おれたち、昨日“コイツら”といろいろあってさ。ログ貯める間、面倒事はゴメンだってんで、カモフラージュっての? してたんだよ。でも、姐さんたちがボコボコにしてくれたから、助かっちまったな」
 ホワイティベイの冗談に笑いながら、シャツの襟を引っ張り、パタパタと揺らした。

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