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(今が楽しいから……?)
 この時間が終わりを告げる事で、つまらなくなると思っているのだろうか。
(……エースの事が嫌いじゃない、から?)
 海賊である彼と離れる事に、寂しさを感じていると云うのだろうか。
(まさか。“ただの情”でしょ――)
「お嬢さん、デスペディーダに行きたいのかい?」
 物思いに耽っていた◆は、店主の言葉に、ハッと顔を上げる。
「あ、あの、私はログポースを探していて……」
 ごめんなさい、と握りしめていたエターナルポースを慌てて返し、自分の左手首にあるログポースを指差した。
「連れが必要なの。在庫はある?」
 どの島の店でも、答えは“NO”だったが、
「今はないねえ……でも多分、あと二、三日もすれば入荷するよ」
「え……!?」
 驚く声を上げながらも、やっぱり……と小さく呟く――別れは近いのだ。
「それは助かる、けど……」
 無意識に落ちる声に、なんだか落ち着かず、自分のログポースを掴む。
 そんな◆に、ナイスタイミングだよ! と、店主はやたら明るい声で頷いた。
「バシーオ島に、せがれが品を仕入れに行っててねえ。船がそろそろ戻る頃なんだ。ログポースもエターナルポースも、そう数は無いだろうが、必ず仕入れてくるはずだよ」
 彼は息子が帰ってくるのが嬉しいのだろう。ニコニコと説明してくれる表情は、品揃えが充実するから、という店主のものではなく、きっと父親のそれだ。
 ざわざわと波立っていた胸が、その平和じみた笑顔で、ほんの少しおさまり、◆は「はは」と気の抜けた声を洩らした。
 と、その時。
「――、なんだろう……?」
 ふと、外が騒がしくなり、◆と、次いで店主も通りへ飛び出す。
「少し先の方で、騒ぎが起きてるみたいだねえ。海賊とかかな?」
 今は海軍が居ないから、と云う店主の言葉に、ドキッとした◆は、振り返って店内を指差した。
「あ、の! これと同じ海図を貰える!?」
 店主の意識を逸らすように、また、自分の焦りを誤魔化すように、
「ログポースは、入荷した頃に買いに来るから!」
 そう口走ったが、彼は特に怪しむ事もなく、まいどあり! と頷いた。
「ログポース一つだね、一応取り置いておくよ」
「ありがとう、お願いね!」
 ベリーを払って海図を受け取ると、挨拶もそこそこに、◆は通りを駆けて行くのだった。




「んがッ……! 腹減った……!!」
 時は少々遡り、◆がエターナルポースを見つける半刻ほど前。
 エースは心地良い浮遊感の中、不意に感じた“切なさ”に、カッと目を見開き、勢い良く起き上がった。
「んー、ウン……あーよく寝たな……今何時だァ……?」
 欠伸をしながら部屋を見回す。眠る前の記憶を手繰り寄せ、壁掛け時計の針に瞬きをする。
「そろそろ昼か……そりゃァ腹が減るはずだ」
 一度、◆に起こされた時とは違い、身体は軽かった。おかしな倦怠感も冷や汗も、もちろん無い。
 よほどぐっすりと眠れたのだなと感心しながらも、部屋を右往左往し、急いで身支度をした――とにかく腹が減っている!
「今メシ屋の辺りをうろついたら、◆にちょうど会えたりしねェかな……二人で居るのはよくねェって云ってたが」
 どうせなら一緒に食いてェ、と呟いたエースは、羽織っただけのシャツをはためかせ、宿を出た。

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