80



 ◆は、この島のランドマークである、海軍基地の付近を探索していた。
 昨夜は取り急ぎ、目についた店で食事と宿をとったので、島の地図が頭に入っておらず、走り回ったのも暗い夜道であったため、中央に基地がある事くらいしか把握出来ていなかった。
 その基地をぐるりと一周してみると、思いの外時間が経っていたので、◆は次に街へ向かった。
 “弩のマイン”やその他の海賊、目つきの悪い輩に気を付けつつ、さくさくと歩く。そのうちに、賑やかなマーケットが並ぶ、メインストリートへ入っていた。
 海軍不在の中、“火拳”と“海賊潰し”が現れただの、“海賊同士の騒ぎ”だのと、昨夜の事件が無かったかのように、通りには人々の活気が溢れている。
「大海賊時代を生きるには、これくらい逞しさが無いと……か」
 ◆の故郷も、海賊や海軍によって荒らされては、幾度も復興してきた島だ。
「まあ、普段は海軍が睨みをきかせて、守っているんだろうけど」
 そう呟きながらも、なんとなく懐かしさを覚え、◆が表情を緩めた時だった。
 ふと目をやった先に、見慣れたものが映り込み、思わずその店先に駆け寄る。
「これ……!!」
 ◆が手に取ったそれは、丸いガラスの球体に、砂時計のようなフレーム。そして、球体の中に小さな針が釣られている――まさしく、エターナルポースであった。
「これがあるって事は……」
 商品を持ったまま、小さな店の中を覗く。
「おや、素敵なお嬢さんだ。いらっしゃい」
 店先の◆に気付いてか、エプロンをかけた男性が、中から顔を覗かせた。
「こんにちは……エターナルポースが置いてあるなんて珍しくて」
 出来得る限りの愛想笑いを浮かべながら、店内へ入る。
「貴重なものだからねえ。仕入れ数も限られているし、並べてもすぐ売れちゃうしで」
 その上、何故かポース系は壊れやすい! と店主らしき彼は、肩をすくめる。
「でも、“それ”が売れ残っているのは、目的地がここから近い島だからかな」
 近い? と、◆は首を傾げ、ネジ留めされているプレートに視線を落とす。
「――“DESPEDIDA”?」
「そう。デスペディーダは、この小さな島だよ」
 店主は壁を指差す。そこには海図が貼られており、この島周辺の海域のものらしい。
 現在居るのは“ギラル島”で、その先には“バシーオ”という大きな島が控えている。“デスペディーダ”は、二つの島を渡る航路間、その少し逸れた場所に、ひっそりと位置していた。
「近いって云っても、ちょっと沖に出たくらいじゃ島影も見えないよ。よっぽど土地勘のある漁師とかじゃない限り、エターナルポース無しにはまず辿り着けないねえ」
 近海で遭難なんてよくある話さ、と付け足す。
「この島のログを記録しても、デスペディーダ島には行けないの?」
「ギラル島の磁気とは引き合わないねえ……あの小さな島と引き合っているのは、近く位置するギラルやバシーオじゃなく、もっと遠くの島なんだ。なんか不思議だよねえ」
 ふうん、と相槌を打ちながら、◆はプレートを再び見つめる。
 DESPEDIDA――確か、“別れ”を意味する言葉だったような、と浮かぶのは、部屋に残してきたエースの事。
「……」
 ◆もまた、彼とは近い内に別れるであろう、と薄々感じていた。
(いつまでも隊長が本船を離れていていいわけがない……四皇の件も気になるだろうし……)
 それは当たり前だと思う。けれど、不可解なのは、どうして“それ”を考えると胸が痛むのか、だった。

- 80 -




←zzz
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -