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「と、とりあえず! 私はいつも通り、ログポースを探しに行く……あと、大きな基地があるって云う、この先の島について調べて……いろいろ回ってくるから」
 バツが悪くなったのもあってか、傍らに置いてあったカバンと得物を手早く取り、ドアへと向かう。
「一人で行くのか? おれもすぐ支度を――」
 慌ててベッドを降りようとするエースに、◆が首を振る。
「マインに目をつけられた事だし、二人で居ない方がいいと思う。変装もあまり意味が無くなったしね」
 目をつけられたのは自分のせいなんだけど、と肩をすくめながら、剣を脇に差す。そんな彼女は、いつも好んで着ている、機能性重視の服装だ。
「じゃ、じゃあ、おれはええと……」
「新聞、読みたいんじゃないの? “四皇のゴタゴタ”って云うの、気になってるでしょう」
 もちろん“その事”を忘れていたわけではなかった。だから、エースが目を見張ったわけは、“その話”を◆が店でしっかり聞いていて、気にしてくれていた事にあった。
 すると、◆はドアから一旦離れ、部屋を横切り、ベッドに腰掛けているエースの前に立った。
「……――少し、休んだら?」
「うん……?」
 掛けられた言葉の意味がよく理解出来ず、曖昧な返事と共に見上げた彼女は、真っ直ぐに見つめ返した。
「エース、疲れた顔してる。一人でゆっくり休んで。それから出たらいいと思う」
 そう云って、少し癖のあるエースの黒髪にふわりと触れ、
「ね?」
 声は心なしか優しく、その手は諭すように数回、髪を撫でた。
「…………ああ……」
 ぼんやりした声を押し出せば、◆は満足したのか頷き、すぐにベッドから離れていく。
「一応、シャツは羽織ってよ?」
 ドアの前で短くそう告げ、さっと部屋を出て行った。
「………………」
 閉まったドアを、暫くの間、ぽかんと見つめていたエースは、
「――ッ!!!!!?????」
 今の今、“された事”を思い出し、声なき声で叫ぶと、勢い良くベッドに倒れ込んだ
(な、なな……なんだ!? 何が起きた!? ◆が、おれを撫で……たッ!?)
 信じられない出来事に、大混乱する脳内と、熱くなっていく顔。思わず両手で顔を覆う。
(いやおれは乙女か……! 落ち着けおれ! 落ち着け“火拳のエース”!!)
 ゴロゴロと転がりたくなる気持ちを抑え、深呼吸を繰り返し、荒ぶる心臓をどうにか鎮める。
 ――疲れた顔してる。
「……疲れてる、か……」
 ようやく手を退かしたエースは、開けた視界に古びた天井を映す。
 今の航海は、ストライカーで長距離移動するだけでなく、後ろに◆を乗せ、神経を使って走っている。そもそも一人用の舟なのだ。耐荷重は余裕こそすれ、本来の航海スタイルではない。
 しかし、体力勝負の海賊稼業を始めるずっと昔から、山道で、谷底で、ジャングルで、ときには猛獣を相手に駆けずり回ってきた人生である――そんなもの、もはや“疲れる”と感じすらしなかった。
「でも、眠った気がしねェしなァ……」
 夢見が良くないのは確かだ、と、今さっきまで自分を襲っていたものを思い出す。
「はあ………………」
 起きたばかりではあるが、◆の言葉に甘えて、少し休もう――そう思い、エースは長い溜め息と共に目を閉じるのだった。

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