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 ――グララララ! 人間みんな海の子だ!!
 オヤジ、
 ――なんでお前はそう、しにたがりなんだよ!!
 サボ、
 ――エースはしなねェでくれよ……!!
 ルフィ……
「……――す」
 なァ、誰か、教えてくれ……
 ――ロジャーへの恨みの数だけ、針を刺すってのはどうだ?
 ――こう云い遺して欲しいねェ、“生まれてきてすみません、ゴミなのに”
 おれは……生まれてきても良かったのか……
「え……す……てば――」
 ――あなたは彼と私の子……ゴール・D・エース――
 なァ……“母さん”……
「エース! 起きて!」
「ッ!!!」
 目を開く直前まで、止まっていたのではと思った。
 そんな呼吸を、エースは身体が求めるままに、肩を大きく上下させて繰り返す。
 勢い良く起き上がった先、だんだんとハッキリする視界には、簡素なベッドに佇む自分、淡白な部屋――
「っ、ぁ……◆……?」
 そして傍らに、自分を見下ろす◆の姿があった。
「フー……やっと起きた! ……水、そこに置いたから」
 彼女はそう云うと、ベッドから離れていく。
「…………ありが、とう……」
 乾ききった喉から出たのは、掠れた吐息のような声だった。
 エースはサイドテーブルに置かれたグラスを手に取り、一気に水を飲み干すと、「すまねェ」と項垂れた。
「……ま、うなされてる人の声が、朝のBGMって、気分良くはないけど」
 ◆の渋い表情からは、怒気や機嫌の悪さは窺えない。そして、皮肉めいた事を云いながらも、「平気なの?」と訊いてくるのが彼女らしくて、エースはホッと力が抜けていくのを感じた。
「目覚めは悪ィけどな……ん、平気さ」
 ベッドに投げ出していた脚を脇に降ろし、ソファに腰掛けている◆を見やる。
 彼女は結構前から起きていたのか、すぐ出掛けられるように身支度は整えられていた。湯気のたつマグに息を吹きかけている、その様子に既視感を覚え――あ、と声が上がる。
「◆こそ平気なのか? むしろ昨夜の事……覚えてるか?」
「ゆうべ……何かおかしな事あった?」
 ずず、とホットコーヒーを飲み、◆が記憶を巡らせるように、宙を仰ぐ。
「昨日は――時化の中、島に着いて、ご飯食べたでしょう。……で、弩のマインが入ってきて……海軍基地まで走って、ここへ帰ってきて……あ、寝る前にちょっと話したっけ――違う?」
 “最後の言葉”に少しドキッとしたエースだったが、あっけらかんと首を傾げてくる◆に、力なく笑った。
「いいや、合ってる。……そうか、酒で記憶が飛ぶタイプじゃねェんだな」
「酒? ああ、お店で飲んだやつ、なかなか強かったような……?」
「はは! “なかなか強い”なんてモンじゃなかったぞ、あのホットラム」
 正確には、ストローラムベースの“イェーガーティー”であり、とてもアルコール度の高い酒である。
「らしくなく、海賊に絡むわ船長を殴るわ……◆って酔うと怖ェなァ」
「よ、酔ったから殴ったんじゃないもの! マインが許せなかったからだし……!」
 昨日の自分を思い出し、冷静になれなかった事が恥ずかしくなったのか、そう云い返す◆の顔は少し赤くなっている。ニヤニヤ笑っているエースと目が合うと、ひと睨みして咳払いをした。

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