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「ちょっと待て、コイツらどっかで見た気が……」
 はた、とテーブルに置かれた新聞に目を落とせば。
「うわあッ!? ひ、“火拳”だァァ!!?」
「なにィッ!!?」
 その声に、店内はまた違う方向にざわつき始めた。今度は海賊だけでなく、客として居合わせた民間人も驚いて立ち上がっている。
「それにそっちは男じゃねェ、この写真の“海賊潰し”だ!!」
「あー……どうも! おれの名はエース!」
 バレたなら仕方ない、とエースは礼儀正しくお辞儀をし、
「行くぞ、◆!」
 ◆の腕を掴んで駆け出す。
「ちょっとォ待ちやがれェ!!」
 そして、マインがクロスボウを構えたと同時に、引っ張られながら◆が思い切り振りかぶった。
 小気味良い音と小さな衝撃に、エースが振り向けば、巨体が派手にテーブルに倒れていくところだった。
「マジか! やっぱり酔ってんな!?」
 思いも寄らない◆の行動に、若干顔を引き攣らせながらも、エースは◆を連れて外へと飛び出した。
「頭ァ! 大丈夫すかあ!?」
 鼻血を出してノビてしまった船長を起こす者、二人を追え! と外へ出て行く者で、店の周囲は騒然となった。
 島の住民たちは“火拳”が出たと云う話もそこそこに、店じまいや家路を急ぐ。今は頼れる海軍も居ないのだ――
 喧騒の町中を走り抜け、エースと◆は、島の中央に位置する海軍基地に辿り着いていた。
 海兵の居ない空っぽの要塞はひっそりとしている。
「よっ……と!」
 行けるところまで建物の外から上がると、海まで見渡せる屋上へとよじ登り、エースは◆を引っ張り上げた。
「まさか海賊がこんなとこに隠れたとは思わねェだろ」
 ふう、と息をつきエースは足を投げ出して座り込む。
「……ごめん、エース」
 その隣にしゃがみ込んだ◆がポツリと呟いた。
「◆が謝る事は無ェよ。それに……さっきの、なんだか嬉しかったしな」
 エースはその背中を軽く叩いてやり、ニッと笑う。
「…………」
 眼下に広がる夜の町は、ところどころから大きな声が上がっているが、おそらくマインのクルー共だろう。それを避けるように、店や家の明かりがだんだんと消えていく。
「わたし……」
「ん?」
 そんな様子を眺めていたエースが小さな声に振り向くと、◆は膝を抱えて俯いていた。
「私は、エースが遊んでるとか隊長の自覚がないとか全く思わないよ。確かにやり方は滅茶苦茶だし、散々振り回されてるけど……結構楽しいの、今」
 ――今の仕事、結構気に入ってるから。
 先ほども聞いたような、その言葉は。
「ふふ、変なの。海賊なんて大嫌いなのにね……でも――」
 自分で自分の言葉が可笑しいのか、◆が微笑み、エースを見つめた。

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