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「隊長らは、昔は名の売れた暴れモンだったのも多いんすな、今じゃイイ息子やってやすが」
 イイ息子ねェ――と、エースはベリー札を出しながら肩をすくめる。
「火拳はもともとスペード海賊団船長でェ、グランドライン引っ掻き回してたぶっち切りのルーキーだったァ……あの頃から既にイカれてるとは思ってたがなァ!」
「そうそう、女癖も悪ィとか!」
「隊放ったらかして、女遊びの片手間に基地破りとは、さすが“四皇”の息子はやる事が違ェや」
「ダハハァ! そんな腑抜けの“拳”なら弩を出すまでもねェわァ、おれの手で一捻りだァ!!」
 椅子に仰け反り、いい気分でクロスボウを振り回すマインに、クルーたちはワッと盛り上がっていた。
「誰が腑抜けだって?」
 しかし、そこへ水を差す者が一人。
「……あァ? なんだァおめェ……」
 急に静かになった海賊たちに、エースが振り向けば。
(え!? ◆……!?)
 楽しく酒を呷るマインの前に、隣に居たはずの男が――否、簡単な男装をしている◆が立っていた。
 肩を怒らせたその背中に目を丸くする。
 ◆は至って落ち着いた性格である。
 エースに対しては、振り回されているがゆえに怒ったり驚いたりする事も多いが、“海賊潰し”として活動してきただけあって、冷静な判断をする方だった。先ほどもそんな彼女にエースは諭されたばかりだ。
 そもそも、厄介事を嫌うであろう◆が、こんな状況で海賊の酒盛りの邪魔をするわけがない。
(……もしや◆、酔ってるのか?)
 思い至ったエースが自分たちが居た席に駆け寄り、◆が飲んでいたマグを手に取る。少しだけ残された飴色の液体に口をつけると、紅茶のような少しの渋みと甘みを感じるが、それ以上に、既に冷めていると云うのにとんでもなく喉が熱い。
「んげッ! このラム、“ストロー”じゃねェのか!? こりゃホットラムじゃなくてイエーガーティーだろ!?」
 “ストロー”は煙草を吸いながらでは絶対に飲んではいけないと云われる、非常にアルコール度の高いラム酒である。これが割られたものでなければ、エースが近付いた瞬間燃えていたかもしれない。
 それを平気で飲んでいた◆は今、フラつきもせずマインを見下ろし、仁王立ちしていた。
「アンタに“火拳”の何が分かるの? 火拳は、自分勝手だけど筋の通った男なんだから。大海賊の息子である事だって重々承知してる!」
「◆……!」
 素面なのかと思うほどハッキリと、しかし普段出さない声量で紡がれた言葉が、強い酒のようにガツンと“火拳”に響く。
「アンタみたいな、たったの8100万が、知ったようにエースを語らないでよ!」
 しかし、場を盛り下げられた海賊たちは徐々に殺気立ち、クルーらが得物を手に立ち上がりだした。
「なんだなんだァ、うるせェ野郎だな! おれたちとやろうってのか?」
「しかもコイツ、女みてェじゃねえか!」
 ふんぞり返っていたマインも身体を起こすと、持っていた大きなクロスボウを肩に担ぐ。
「おれのォ懸賞金を知った上で絡んでんならァ、何されても文句ねェなァ……?」
 巨体にデカい得物を前にしても、◆はフン、と鼻で笑うだけだった。
「やるならどうぞ、小物さん?」
「アァ!!?」
「おい、◆! その辺にしとけ!!」
 さすがに、とエースは◆に駆け寄り、肩を掴んだ。
 ロングパンツにシャツを羽織っただけのエースと、男物の服を着ただけの◆と――二人が並べば、先ほど新聞を持っていた男が首を傾げる。

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