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「お前の趣味は盗聴だもんなァ! だがァ、海軍は白電伝虫で盗聴妨害するはずゥ、よく出来たもんだなァ」
「へェ、よほどアイツらも慌てていたとかで、ちょうど念波を掴めたとかで」
 不思議な話し方をするクルーの横で、マインはウンウンと頷いた。
「でかい基地がある島に召集かかったんだなァ。おかげでこの島は居心地良いわァ」
 酒を呷る彼らの声は大きいので、そう広くない店全体に会話は響き渡っていた。
 店内にはまだ民間人が居たが、マインたちを刺激しないようにと、皆小さくなって酒を飲んでいる。そんな雰囲気であるからして、エースはこの酒を飲んだら店を出ようと思っていた――が。
「そういやマインの頭、今朝の新聞に載ってやしたが、新世界で“四皇”絡みのゴタゴタもあったんで、それも関係してんでしょう。方方に駆り出されてんじゃないすかねェ」
 気になる台詞にピクリと眉をひそめる。
「……四皇……」
 そういえば今朝の新聞は読んでいない――相変わらずホットラムを飲み続ける◆から視線は動かさず、聞き耳を立てる。
「矛先がおれたちに向けられてなきゃァ、海軍が忙しいのはいい事だなァ! 最近は“火拳”のせいで随分やりにくかったがァ、ここら一帯が手薄ならしばらくはゆっくり遊べるなァ!」
 しかし、それきり彼らの話には“四皇”の言葉は出ず、エースはガクリと脱力した。宿に戻りがてら新聞を手に入れなきゃなと、酒を飲み干す。
「そろそろ出よう、◆――」
「しっかし“火拳”もなんだありゃァ! 女連れて海軍基地に殴り込みとはイカれてらァ!」
 立ち上がりかけたエースを引き止めるように、マインは彼の二つ名を再び挙げた。
 本人が居る事も知らず話題にされ続けるのはよくある事だし、耳寄りな情報でなければ気に留めない。しかし、なんとなく静かに腰を戻した。
「ああ、情報を狙ってるとかで、噂じゃ白ひげからの指示でやってるとかで」
「だが連れてる女ァ白ひげの“娘”じゃねェ。アイツァおれたち海賊をカモにしてた“海賊潰し”ってェのが意味分からねェのよォ!」
「でも頭、その娘がなかなか美人なんすよ。ホラこの写真、でかく映ってやせんが」
 クルーの一人が腰に差していた新聞を取り出した。◆が載っているのならば幾らか前のものだろう。
「オオォ、確かにイイ女だァ!」
「二人きりで航海とは羨ましいねえ……もしかして“ソレ”目的で連れてるのか?」
「ダハハハァ! 仕事終わったら夜はお楽しみかァ!?」
「ギャハハ、お頭下品っすよォ」
「――っアイツら……!」
 エースは自分の事ならばなんでも云えと思っていたが、その矛先が◆に向けられるのは違った。ここで騒ぎにするのは得策ではないが、苛立ちが隠せずギュッと拳を握る。
 それを鎮めるように、マグを持っていた◆の手が拳に軽く触れた。
「出よう」
「……おう」
 落ち着いた様子で席を立つ◆に続き、エースは渋い表情を浮かべながらも会計へ向かう。
 その傍では相変わらず、マインたちが騒がしく話し続けていた。船長の言葉にクルーたちが煽ったり同調したりするので気分が良いのだろう、マインは更に調子づいて続けた。
「白ひげはおれたちの憧れだァ悪く云いたかねェがァ、火拳は“白ひげンとこ”の隊長っつー自覚は無ェのかねェ!」
 会計中、二人は“そちら”に背を向けていたが、わざとではないかと思うほど名を挙げられ、その話題は尽きない。

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