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「……ハァ……ハァ、」
 疲労は少しずつ溜まっていくが、それは気にしていられない。
 次に向かう場所に居るのは親玉――どちらの船の船長も“能力者”だと聞いているのだ。幾ら◆でも能力者を相手に、易々と宿に帰れるとは思わない。
(でも、怪我をすると面倒だな……)
 ◆は険しい面持ちで町の方へと歩いた。大きな怪我でもすれば、エースが気付いて怪しむかもしれない。
「怪我をしないようにすればいいんだけど」
 目当ての酒場に着けば、中からはバカ笑いが聞こえてくる。
「海賊は本当に、やりやすくて助かる……」
 剣を持つ手に力を込め、◆は鼻で笑った。
 今から起こる騒ぎがエースの居る宿へと届く前に、二つの海賊団を壊滅させる。それが今回の“仕事”だ。
 ふとエースの笑顔が浮かんだが、それを振り払うように首を振る。
「……ふー……」
 そして集中を高める為に目を閉じ、長く息を吐く。
 ――思い出すのは、故郷の風景……“壊れてしまう前”の、何の変哲も無い幸せな日々。育ててくれた肉親――。
「行こう……!」
 自分の命が続く限り、“海賊”と云う生き物を一つでも多く消すために。
 ◆は目を開くと、真っ直ぐに酒場へ向かって行った。



 エースが目を覚ました時には、既に陽は高く昇っていた。
「ふァーッ、良く寝た!」
 ベッドから起き上がり、伸びをしながらエースは◆の部屋の方の壁を見る。
「あー腹減ったなー……◆はもう出掛けちまってるかな」
 こんな時間なら一人で街に出てしまっているかもしれない。◆は基本的に自分のことをあまり好いていないみたいだし、一緒に居ても迷惑そうな顔しか見せない気がする。
「まァ、海賊嫌いって云ってたし……」
 仕方ねェけど、とエースはベッドを出る。
 しかし、逃げ出すことは可能なのにそれをしない。自分が白ひげ海賊団の隊長だから、ここで逃げ出した後での報復を恐れているのだろうか。それとも単に自身で云っていた“約束は守る方”だからなのだろうか。
 どちらにしろ、エースは◆のことを気に入っていた。
「まっ、あんまカワイクねェけど!」
 エースは笑いながらシャワールームに向かう。
 カワイクないと云うのは性格的なことだ。外見は申し分ないが中身が少々男っぽく、一人で旅をしてきたのだと云う雰囲気がビシビシ伝わってくる。
「そこら辺の男より強そうだもんなァ」
 ぽいぽいと服を脱ぎ捨て、蛇口を捻ってまた笑った。
 しかしエースは、◆のことはほとんど……と云うより何も知らない。それなのに、ほぼ無理矢理に連れて来てしまったのは――あの場で倒れていたのは、◆に助けられたのは、ログポースを失くしたのは――何故なのだろう。
 運命、と云う言葉では片付けたくなくて、エースはその理由を探す。

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