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 逃げようと思えば出来るのかもしれないが、どう考えてもそれは得策ではない気もする。それに今は疲れているし、タイミングが悪い。
 本心もあってそう答えると、エースはそっか、と笑った。
「じゃあ早速メシ食おうぜ、もー腹が減ってやべェ!」
 ◆が立っていたのは、ちょうどレストランの前だったようで、エースは◆の手を掴んで意気揚々と店の中に入って行く。
 何を云う暇も無く、気付けば賑やかな店内の席に二人で座り、メニューを開いていた。
「今なら何でも食えそうだなァ」
「何でも食えばいいけど、食い逃げは禁止だから」
 考えて決めて、と云う◆は既にオーダーを済ましている。
「分かってるって! あ、店員さーん! おれ、コレとコレとコレ……っと、コレも!」
 本当に分かっているのか不安だったが、話すのも億劫だったので、フゥと息を吐いて傍の窓から外に目を向けた。
「疲れてるんだろ? 休んでねェもんな……そういや、おれが寝てる間、何してたんだ?」
 エースの質問にドキッとしたが、コップを手に取りながら首を傾げる。
「別に? 店を見たり、あとは海軍が居ないか、とか……?」
 チラ、とエースを見れば、テーブルに突っ伏していた。
「……また寝てるし」
 こんな自由なエースを相手にしていると、気を張り詰めている自分がバカらしくもなってくる。
(気を許してしまう前にログポースを見つけないと……)
 テーブルに頬杖をついた◆は、エースの寝顔を見ながら肩の力を抜いた。



 ――その夜。
 ◆はソーッと、宿から外へ出た。
 隣の部屋からはエースのいびきが聞こえてきていたし、自分が部屋を出た事に気付きもしないだろう。
 夜になるまで睡眠はとったし、疲労は少し感じられたが海賊団を二つ潰す事など訳無い。◆は準備満タンだと足早に通りを歩く。
「まずは船から行こうかな……」
 狙う二つの海賊団の船に、どの位の船番を置いているかは昼の内に確認してある。
 どちらの海賊達も船長を始め、大体のクルーは酒場で盛り上がっていて船の見張りなど手薄なのだ。
 海軍も居ないし、賞金稼ぎに狙われるとしても迎え撃つ自信もあるのだろう。悪魔の実の能力者が船長と聞いたから少しは腕が立つのかもしれない。
 目的地に着き、◆はガレオン船を見上げた。
「でもこの船には今、船長は居ないし?」
 余裕の笑みを浮かべて敵船に乗り込んで行った◆だったが、あっと云う間に船の中のクルーを一掃し、持てる分のお宝を運び出してしまった。
 少しは騒がしかったかもしれないが、海賊船が停泊している場所にうろつく人など居ないし、何も無かったかのように島の入江は波を寄せている。
 その勢いで、もう一つの海賊船も潰しにかかれば数分で事足りてしまった。

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