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 翌朝の天気は快晴で、時折強い追い風も吹く。
 これは気持ち良く出航出来そうだと、操舵手や航海士が甲板で話す中、ドレークは自室でコーヒーをすすっていた。
(変わらず持ってきてくれたな……)
 毎朝、◆が淹れてきてくれるコーヒー。
 昨日の事があったので、今朝は来ないかもと思っていたが、いつもの時間に、彼女は部屋のドアを叩いた。
 ただ、その表情は固いもので、「ありがとう」と云うドレークの言葉にも、小さく会釈をして、さっと退室してしまった。
(無理やり口の端を上げていた、声を掛ける暇もなかった)
 ずず、とちょうど良い温度のコーヒーを飲むも、いつもより苦い気がする、と首を傾げる。
(しかし、まずは出航準備だ。それから……うん、そうしよう)
 どうせ島を離れてしまえば、しばらく同じ船の上に居るしかない。その時に、ゆっくり話をして――
 そう考えたドレークは、手早く身支度を始めるのだった。
 出航を控えた朝食は量が多めで、いつもより時間がかかるも、食べ終えた者から各自の仕事へと散っていった。
 朝食中、離れた席についていた◆をちらりと見てみたが、フォローのためかホップが頻りに話しかけてやっており、そのテーブルは賑やかで、頼もしいクルーたちだと安心した。
 その後は、食糧や備品のリスト、航海計画の最終チェックをこなし、船長としての仕事が一段落ついた頃。
 航海士の腕にあるログポースは、水平線の彼方を指した。
「あとは船体の最終点検のみだな」
 クルーたちが甲板をあくせくと行き交う中、操舵室の前で腕を組み、それらを見守っていたドレークは口を開く。
「特に異常はないでしょうから、すぐにでも出航可能かと」
 隣に立っていた航海士が、長い髭を撫でながら云った。
「――ドレーク船長」
 と、その声にドレークは心底驚いた。
「……どうした? ◆」
 しかし、そんな感情はおくびにも出さず、彼女の方をゆっくりと振り向く。
 自分の仕事を既に終えただろう彼女は、ドレークに声を掛けたものの、こちらを見てはおらず、俯き気味に話し出す。
「お忙しいところすみません。あの……出航前にもう一度上陸したくてお願いに。昨日、必要なものを買いそびれてしまって……行く場所はもう決まっているから、すぐ終わります」
「……上陸か……そうだな――」
 ドレークは甲板に視線を移し、
「――なら、今日はおれが一緒に行こう」
 と、再び彼女の方を向いた。
「え……、」
 顔を上げた◆と今度は目が合うも、ドレークは表情を変えずに、おれも街に用があるんだと頷いた。
「昨日の今日だ、おれが同行しては不都合なら、悪いがお前に外出は認められん」
「……いいえ。心強いです、お願いします」
 一瞬、躊躇うように視線をさ迷わせた◆だったが、すぐに首を振り、軽く頭を下げる。
 ドレークが振り返れば、話を聞いていたであろう航海士が、どうされますかと云うように微笑んだ。
「少し出てくる――出航準備を済ませたのち、船内にて総員待機させてくれ」
「ええ、承知しました」
 そうして、二人は船を降り、街へ向かうのだった。

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