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 その夜――。
 船長室で書き物をしていたドレークは、一段落ついて食堂へ向かった。
 夕食が済んだそこでは、当直のないクルーらが思い思いに過ごしていたが、ほとんどの者は新聞を片手に討論に興じている。議題は云わずもがな、海軍や政府についてだろう。
 船長が姿を現してもそれが止む事は無かったが、みな自然と上座を空けるように席を移動していく。そうしろと云った覚えもないし、席など何処でも良かったが、いつでも気持ち良く勧めてくれるから、ドレークはありがとう、と腰掛けるだけだった。
「船長、いつもので?」
「ああ……いや――“スレッジ・ハンマー”を貰えるか?」
 キッチンで仕込みをしていたコックに声を掛けられ、帽子を外しながらそう答えると、
「……勿論です、お待ちを」
 と短く返ってきた。
 おそらく、その手は船長専用のボトルとワイングラスに伸びていたのだろう。返事に少しの間があったものの、何を訊く事もなくシェイカーとカクテルグラスは用意されていく。
 ――なんとなく、強い酒が飲みたくなったのだ。
 待っている間、頬杖をつくドレークの頭にぼんやりと浮かぶのは、どうにも◆の事で。
 “あの後”、姿を見たのは夕食の時だったが、彼女は自分からかなり離れた場所で食事をとっていた。食堂の定位置は自分と幹部以外はなく、◆も日々自由に座っていたが――
 なんだか避けられている気がしてしまうのは、自意識過剰だろうか。
 あまり顔も見ないままだったな、と小さく息を漏らすと、テーブルに小洒落たコースターが置かれる。
「ドレーク船長、どうぞ」
 バーテンダーの経験もあるコックは無駄のない動きでグラスを置き、軽く会釈をするとキッチンへ消えていった。
 ドレークはそちらへ礼を云ってから、逆三角形のグラスを手に取る。
 ライムジュースでほんの少し濁されたウォッカベースのカクテルは、寒夜に吐いた白い息の色合いに似ていた。“ノース”の夜を思い出しながら口をつけると、その名の通り、やはり強い。
 顔をしかめながら喉に流し込み、残るウォッカの熱とライムの苦みにもう一度息を吐いた。
「船長」
 ふと顔を上げると、離れた場所で談話していたはずのホップが傍に立っていた。
「どうした」
 もう一口飲み、グラスを置く。
 船長が“こういう酒”を飲んでいる時は、誰も声を掛けないのが暗黙の了解というのか、上座の件と同じく自然と行われていたが、ホップは構わず続けた。
「あの……◆を許してやって欲しいんです……!」
 唐突なその言葉に、こめかみにやろうとした手が止まる。
「……んん?」
 意味が解らずに思わず二度見をすれば、ホップは勢いよく頭を下げた。
「まずは! ◆をちゃんと護衛出来ずに申し訳ありませんでした! それで……っそれで、おれは◆を疑ってません。海兵だった事も、“白猟”と繋がりがあった事も……気にしてません! 裏切られたとも思ってません!!」

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