08
「古本屋の店主がお前に会った事がある者だったのだ。“◆”がこの島に来ている事と、かなりの別嬪だという事を聞いていたからな。それで、お前が“◆”だと検討がついたのだ」
「そんな、私……」
 ◆は恥ずかしそうに左手を頬に当てた。うっすらと色付く頬と照れ笑いする様子に、ドレークは微笑ましくなる。これだけの器量を持ちながら自覚が無いとは、ある意味恐ろしい。
「お前の書いた本は夢中になって読んでしまってな。それで島に来ているという事ならば会ってみたいと思って、出航前におれも◆を探していたんだ」
 ◆に合わせ立ち止まっていたドレークは、そう云いながら再び歩き出す。
 夜通しで本を読み、今日の昼前に起きた事を話してみせると、◆は可笑しそうにフフッと笑った。
「私の本を読むとみんなそうなるって聞いた事があるけれど、まさかドレーク船長もだったの」
「それはそうだ。おれも人の子だからな」
 ドレークは肩をすくめる。
「でも、ドレーク船長にそう云って貰えて嬉しい。あなたにだから云うけれど、私は本を書く事で政府から監視を受けているんです。それは凄く嫌なんだけど……でもその言葉を聞けるなら、どうやってでも本を書く事はやめない」
 ◆の力強い微笑みに、ドレークも頷いた。
「お前が本を書くのをやめたら、哀しむ者が沢山居るだろう。もちろん、おれもその一人だ」
 その言葉に、◆は驚いたように目を丸くし、ふわりと微笑む。しかし、急に表情を落とすと俯いて黙りこくってしまった。
「どうした……?」
 ドレークが首を傾げると、◆は歩調をゆっくり落とし、ドレークの少し後ろをついてくる。その様子は何かを考えているようにも見えて、ドレークは黙って◆の前を歩いた。
 暫く歩くと、ふと潮の香りが強くなり、それに顔を上げると視界が開けた。
 波が打ち寄せる砂浜には、自分の船が停泊している。その船の雰囲気が静かなところを見ると、もう出航の準備は整っているようだ。きっと自分に待ちくたびれているに違いない。
 ドレークは足を止めて、◆を振り返る。
「――◆、名残惜しいがここまでだ。お前に逢えて良かった」
 名残惜しいのは本当だったが、そんな経験は何度もしている。海に人生を浮かべているドレークは、少々心苦しい別れだとしても、振り向かずに海に向かえる。――それが、海賊だ。
「……」
 すると、◆は何も云わずにドレークをじっと見つめる。その眼差しが痛いほど真剣で、思わず息を飲んだ。
「――ドレーク船長」
「……、何だ?」

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