05
「ドレーク船長、宜しいですか?」
礼儀正しくドアがノックされて、ドレークは着替えながら返事をする。
「失礼します……ああ、良かった。やっと返事を頂けましたよ」
おはようございます、と入ってくるクルーをソファへ促す。クルーは淹れたてのコーヒーと軽食を持って来てくれていて、ドレークは昨日の読書開始から何も食べていなかった事に今になって気付いた。
「心配しましたよ。何度も声をお掛けしたんですが、全く反応されないものですから。ーーで、本は読み終えたので?」
有り難くコーヒーを手に取ったドレークは息を吹きかけつつ、サンドイッチを食べ始める。
「あぁ、今しがただ。しかし、おれもこんなに熱中するとは思わなかった。お前たちに指示を出しておいて正解だったな……声を無視してしまったのは不可抗力とは云え、すまない」
「いえ、それは構いませんがーーそんなにのめり込んでしまう本なんて、少々不気味ですね」
クルーは心配そうに眉をひそめた。
「フフ、そうだな。おれも少し怖くなった……美味かった、ありがとう」
空のトレーをクルーに渡して、ドレークはコーヒーを啜りながらソファを立ち上がる。
「今日の夕刻にはログが貯まるだろう。ログポースが動き次第、出航する。それまでに準備を整えておくように伝えてくれ」
ドレークがようやく飲み干したカップを受け取りながら、クルーは頷いた。
「お出掛けで? 船長」
「ああ。まだぼんやりしているからな、少し散歩でもするとしよう。出航前には戻る」
部屋を出ていくドレークを、クルーはお気をつけて、と見送った。
今日は市場も開かれていないらしく、ドレークは静かな昼下がりの街を何処へともなくブラついた。
散歩がてら、本の作者である“◆”を探してみようと思っていたが、名前と別嬪と云う事しか知らないドレークは、どう探したら良いかも分からず、結局散歩をしているだけだった。
「店主に詳しく聞いておくべきだったか……」
男を探そうにも市場の古本屋とだけしか知らないし、もしかしたらもう島を出ているかもしれない。
「やれやれ」
そう大きくはない街の大通りをぐるりと回って、ドレークは一息つこうと石垣に腰掛けた。
そこは街の外れで、少し行くと木々が生い茂っている林になっている。
「さて、どうしたものか――」
“◆”に逢えずとも構わないと云えばそうだ。この旅において問題がある訳でもないし、むしろ個人的な用事で執着するつもりは無かった。
それに、この“グランドライン”においては、運命ならば必ず出逢うものーー
「……?」
ふと、林の方に人気を感じて、ドレークは顔を上げる。
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