04
その夜、ドレーク海賊団は昨日、一昨日と同じく街の酒場に居た。
三日目ともなれば酒場に来たのは半分の人数だったが、それでも船長であるドレークの姿がないのはクルー達にとっては驚きだった。
「おれ達が外で飲む時は、必ず一緒に来るのになァ」
クルーの一人がカウンターで呟く。すると周りに居たクルー達も、そうだよなと頷いた。
いつもドレークは途中で帰る事もなく、最後までクルーに気を配って面倒を見てくれていたのだ。
「散歩から帰られたと思ったら部屋に篭って読書を始めていたけど、珍しい本でも見つけたのかな」
「“これから本を読むから、後の事はお前達で好きにしていていい”って云ってたし、余程本に集中したかったみたいだが……」
クルー達は首を捻る。
「そういや、酒場に行くって伝えに行ったんだが、声を掛けても全く反応無かったな」
酒場では、ドレーク船長の様子がおかしい、とクルー達が話し続けていたが、船では、ドレークが自室で一心不乱に本を読んでいた。
『正義を背負う海』と云うその本は、露店の店主が云っていた通り、フィクションの海軍小説だった。しかし、ところどころに見られる“リアルな海軍”は、元少将だった彼からするとかなり目を見張るものがあり、益々ドレークは話に集中していった。
分厚い本を読み終えたのは、島に来て四日目の昼前だった。
「――朝……か……?」
ぼんやりとしているが眠たくはない。
しかし、備え付けの洗面台で顔を洗っても、頭の中はまだ本の余韻に浸っているようで、ドレークは心地良い感覚に揺られながらベッドの上に腰掛けた。
読み始めたのは昨日の昼過ぎで、知らぬ間に夜が更けていたのかと驚く。もっと驚いたのは、部屋が暗くなってきた時に、無意識に灯りを点けていたらしい事だ。船長机には、ランプが今まさにオイル切れして消えていくところだった。
「……なるほど、恐ろしい本だな」
机の上の橙色の本を取ると、一番最後のページを開いてみる。
「――◆」
著作者の欄はファーストネームだけで、ドレークはその名を呟きながら机の引き出しに本をしまった。
外やクルーの様子は分からないが、とりあえずシャワーを浴びると、少し頭がスッキリしてくる。と云っても、頭の中にはまだ小説の主人公や事件がぐるぐるとしていて、ドレークは何度も頭を振った。
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