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「スモーカー准将にはキスされました」
「っ、ごほっ……!」
 突然そんな事を云われればむせ返るのも仕方無い事だ、と数回咳を繰り返しながらドレークは思う。
「すみません船長、大丈夫ですか」
「ああ……気にするな」
 ――キスされました。
 その言葉を聞いた瞬間に、◆とスモーカーの唇が重なりあっている様子を思わず想像してしまったのだ。勘弁してくれ、とほつれた橙の髪を後ろに流し、再び首を振る。
 正直に話してもらった事ですっきりした筈だが、同時に胸の内が黒い何かで覆われていく感覚を覚えた。体に合わない種類の酒で胃をやられたような、ぐつぐつとドロドロした何かを煮込んでいるような。
 そのうちに酷く顔をしかめていた事に、ドレークは気付かなかった。
「……船長……?」
 こちらを窺うような◆の声も、どこか鬱陶しく思えてしまう。
「うむ――お前と白猟の事はよく解った」
 自分で訊いたにも関わらず、この話はもうやめだとでも云うように、さっぱりと頷く。
「◆が“奴”と何を話していたのかは訊かないが、お前が間者ではないと信用していいんだな」
「はい……それは勿論」
 この部屋に来た時と同じ固い声色になったドレークに、◆は同じく固い表情で答えた。
「他のクルーにはおれが上手く説明しておこう。――おれが訊きたい事は訊いたが、お前から何か云っておきたい事はあるか?」
「……いえ、ないです。今日はすみませんでした」
 失礼します、と消えそうな声でそう云うと、◆は立ち上がり、すぐに部屋を出て行った。
 パタン、と静かに閉まったドアに目をやってから、ドレークは佇まいを崩し、ソファの背もたれに寄りかかる。
「◆も海兵だったか……」
 本部へ異動となったが、ローグタウン配属となったのならすれ違う事もなかったのだろう。それが口惜しく感じられる。もっと前から彼女を知っていたかったと思うこの心は、一体何を表しているのだろうか。
 先刻、港で起きたやりとりを――スモーカーと◆、そして自分の会話を思い出すだけで胸焼けがする思いだ。
 しかし過去がどうであれ、今は◆は自分の海賊団に所属していて、自分を慕って共に居るのだから。
 そしてそれに安堵している。
「本当に、どうかしているな…………」
 クールに自嘲してみるものの、自分が酷い執着心の持ち主だということに、今の彼はまだ気付いていなかった。

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