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「スモーカー准将は――その、とってもおこがましいですが……私の事を気に入って下さってる、みたいで……」
「“気に入ってる”?」
 その表現が正しいのか分からないけど、と◆は頷く。
「配属先がローグタウンだったので准将にはお世話になったけれど、ちょっと困った上司で……。なんと云うか……えっと、何度か危ない目に」
 危ない目――その言葉にドレークが目を丸くすれば、◆はアハハと苦笑いを浮かべた。
「それでも、その度にたしぎが――同僚がその場に飛び込んできてくれて、なんとか逃げる事が出来ていたんだけど。いわゆる“お約束の神”で。いいところで邪魔が入るって云う――まあ、私にとっては危機だったのでナイスタイミングです」
 肩をすくめた◆は、恥ずかしいと云うよりも、言葉通り困っているように見えた。
「CP9から逃がしてくれたのも、多分そう云う感情かららしくて。それに、これは冗談だと思いたいけど、“お前を捕まえない”なんて云ったんですよ。ま、冗談だと思いますけどね!」
(あの堅物に“そんな事”を云わせるとは……恐ろしいやつだな、◆)
「それはおれも冗談だと思いたいものだな」
 見逃してくれるのは有難い事だが、理由に釈然としないものがあるので、ドレークはやれやれと首を振った。
「――それで、さっきは平気だったのか?」
「え?」
 先程から◆から感じる香りは、例えドレークが“そういうこと”に疎かったとしても何か勘ぐってしまうほど、酷く彼女にまとわりついていた。そしてその事に、自分が気分を害しているのも薄々気付いていた。
「何度も危ない目に遭ってきたと云っただろう? 今回は何もされなかったなら、お前が無事ならそれでいい。だが、……葉巻の香りが、だな」
 黙っていようと思っていたんだが、とドレークは◆から目をそらす。
「…………」
 ◆はドレークの言葉をすぐには理解出来なかったようで、
「はまき……?」
 と繰り返していたが、ハッと口を覆うと俯いてしまった。見えている耳は赤い。
「…………ご気分を悪くさせましたか?」
「おれよりお前の方が嫌な気分になっただろう。こんな事を訊かれて」
「……いいえ、変に誤解されて距離を置かれるより、ずばり訊かれた方がいいです」
 そう云って顔を上げると、口角を無理に動かし、傷ついた笑顔を浮かべる。
「私は絶対に、ドレーク船長の信頼を失いたくないから」
 その言葉は彼女の口から軽やかに紡がれたが、それはまるで彼女が以前、自身の信念を語った時と同じような響きを持って、ドレークの胸に重く刻み込まれた。
「ああ――おれもお前を信頼し続けたい。だからと云って、こんな踏み込んだ事を訊いていいのか迷うところだが……決して興味本位というわけではない事は解ってほしい」
「ええ、承知してます」
 今度はにっこりと◆が微笑んだので、ドレークは知らずホッと息を吐いていた。

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