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「私は――16才で海軍へ入隊した、元海兵なんです」
本を書く為にね、と続ければ、ドレークは特に驚いた様子も見せずに頷く。
「やはりな、お前も海兵だったのか……執筆の為に、海軍に潜入取材をしていたとは聞いたが、本当だったんだな」
「だけど、在籍していたのはたったの三年間です。“東の海”支部から始まり、本部に異動、ローグタウン配属、そして除隊……と云う感じで」
ローグタウン、とドレークは繰り返す。
「“東の海”のローグタウンではスモーカー准将に――当時は大佐だけど、色々とお世話になって。執筆の事を知っても尚、自分の下に置いてくれたから……」
「そうか……スモーカーとの面識があるのはそこなんだな」
ドレークは腕を組み、顎の傷を撫でる。
彼が“白猟”と呼ばれ始めたのは、ローグタウン配属が決まる前だったか後だったか――“異端児”を本部から半ば追い出すかのように、グランドラインの入口へ飛ばしたのは誰だったか――と、記憶を巡らせていたが、ふと思い出したように顔を上げた。
「そう云えば、お前は以前、おれを“見かけた事はある”と云っていたな? 海兵の頃、と云う事か?」
初めて◆に逢った時、何処かで会ったかと訊ねたドレークに、そう笑顔で返してきた。抱きつかれながら“ずっと会いたかった”と云われたのだ。
「ん、そうです」
口角をきゅっと上げて、簡潔に◆は答える。
その話し方や表情からして、海兵時代の事はあまり話したくないのか、とドレークは読む。
「――なるほど。しかし、人の縁とは不思議なものだな。同じ“海軍”に属していながら、互いに対面した事はなく、けれど今こうして同じ海賊団に居るのだから」
そう云えば、◆は出逢った時、こうも云っていた。――ここで逢えたのも何かの縁あってこそ、と。
「ふふ、そうですね」
さきほどと同じように口角を上げて、無理やり笑みを作る。その瞳はローテーブルの上を見つめている。
「……もう一つ訊いてもいいか。お前の除隊理由だ」
すると、◆は顔を上げ、ドレークと目を合わせた。思わずドキリとするドレークだったが、◆は数秒その目線を逸らさず、何か云いかけ――しかし、まばたきを一つした瞬間に目線はテーブル上へ戻ってしまった。
「……◆?」
「ええと……取材出来る事はしたと、思って」
今の態度はやや不可解なものがあるが、その答えに、潜伏取材と云うのも三年くらいが限度かもしれんな、と納得はいく。確か、◆の処女作の初版が三年前だったはずだと、“正義を背負う海”の最後のページを思い出す。
海軍に入隊、取材し終えて除隊、そして執筆、出版――時間軸からしてもちょうど合う。
「ふむ……――よく解った。話してくれて良かった」
ありがとう、とドレークが云うと、◆は分かりやすいほどの大きな溜め息を吐いた。
「どうした、そんな尋問されたみたいに」
とは云うものの、あまり変わらないかと肩をすくめる。
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