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 色々と訊かれるのだろうな――と、浮かない気分を引きずりつつ、◆は急いで自室へ鞄を置きに行った。
 “来い”と云った声は割と穏やかだったものの、船長室のドアを前にすると怖気づきそうになった。が、このままだと信用を失いかねない――そう覚悟し、ドアをノックする。
「入れ」
 許可を貰って中に入れば、ドレークは腰の得物を壁に掛けているところだった。
「早かったな」
 そう云いながら、◆をソファに座らせ、自分も向かいのソファへ腰掛けた。
「出先から戻って休む間も与えず、すまないな」
 気遣う言葉はくれるものの、その表情は固いままで、◆はチラチラとドレークの顔色を伺いつつ、いえ――と首を振る。
「船長こそ……お忙しかったのに、色々とお手間を取らせて――」
 ごめんなさい、と続ければ、ドレークは帽子を取って小さく息を吐いた。
「まあな……今日はいささか疲れた」
 正直にそう述べ、帽子をローテーブルに置いて肩をすくめる。その様子がいくらか冗談めいていたので、◆は少しホッとしてしまった。
「――さて」
 それも束の間、ドレークは話を切り出した。
「……お前が話したくない事は話さなくていい」
 こめかみに手をやってマスクを直し、そんな前置きをした。彼らしいなと思いながら、◆はコクリと頷く。
「この船にはな、元々海軍に居た者が多い……海軍時代のおれの下にいた者、上にいた者、他の将校の下から来た者も居る。だから“元海兵”などと云う肩書きは、おれたちにとって特別な事ではない。――だが、“小説家”として仲間になったお前が“白猟”と関係があったとなると、こちらも少々戸惑うぞ」
 もちろん、仲間に入れる際に、自らの経歴全てを明かせと云った覚えはない。それはむしろ、海軍の時にドレークが入隊の面接でしていた事だったが、誰にもそんな事を強要した事は無いし、出生がよく分からない者だっている。
 スパイと疑えば、皆疑わしくなる。けれどそれを“信頼”と云うものが“信用”させているのだ。
 しかし、◆が現役海軍将校のスモーカーと面識があり、更には軍艦で何かを訊かれていたらしい――捕まったわけじゃないと◆が云っていたから、強制的なものではなく。では、二人の関係性は何になるのか、◆の思惑は、と次々に疑問が浮かんでいってしまう。
「…………」
 ドレークははっきりとは口にしなかったが――それはそれで彼らしい気もした――◆の事を怪しんでいるのは隠しようが無い事だった。
「……当たり前ね」
 隠す必要は無かったが、話す必要も無かった。しかし、“昔馴染み”が登場してしまったのなら、もう腹を括るしかなく。
「ドレーク船長、今まで黙っていてごめんなさい」
 ハァ、と息を吐き、薄い色の瞳を見据える。

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