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「先日のCP9との接触、あの白いモヤはスモーカー准将の計らいだったそうなんです」
「なに――!?」
 ◆の言葉に目を見開き、ドレークはスモーカーを見やる。
 既にタラップと錨は上げられ、軍艦が少し騒がしくなった様子から、出航の準備をしているようだった。今もスモーカーとたしぎの後ろでは、作業の海兵が忙しなく行き交う。
「…………」
 何故、海兵であるスモーカーが自分たちを助けるような真似をしたのか――彼が海賊に情けをかける男ではない事は、ドレークの海軍時代から知っている。が、理由は後で◆に訊けるかもしれないと考え、帽子に手をやった。
「礼を云う」
 それはまるで、海兵が何かを報告する時のように――白いキャップのツバを摘むようにも見えた。
「……CP9の追跡は保留になるようだが、完全に逃れられるわけじゃねェからな」
「ああ、分かっている」
 スモーカーの言葉は“気を緩めるなよ”と云うようにも聞こえ、ドレークは驚きを隠しながら固い声で頷いた。
「フン……次は容赦しねェ」
 そう云って、どこか不服そうに葉巻を揺らしたスモーカーは、振り向いて海兵らに指示を出す。
 ややあって、低く大きな音が港に響き、軍艦がおもむろに動き出した。
 ◆からたしぎの姿はまだ見えたが、先程はなんとなく曖昧だった自分たちは既に“海軍”と“海賊”に分かれている。それを踏まえ、手を振ったり挨拶を口にする事はなかった。
「…………」
 ふとスモーカーと目が合えば、ジッとその鋭い眼で見つめられる。
「…………」
 ほんの数時間のうちに彼とは色々あり過ぎて、◆はなんとも云えない気持ちだ。しかし目を逸らす事も出来ず、ただ黙って見つめ返すだけだった。
「……」
 そして、ドレークもまた、二人が無言で見つめ合っている事に気付いていた。
 しかし、海賊が海軍を見送る道理も、ここに居続ける理由も無い。
「◆」
 二人の視線を断ち切るように声を掛ければ、もはや人影が見えなくなった軍艦から意識を戻してくる。
「戻るぞ」
 美しい線に縁どられた瞳が自分を捉え、そこに自分が映り込む。そして自分の瞳もまた、同じように彼女のそれを映す――その事に何故だかひどく満足したドレークは、マントを翻して小さくなる軍艦に背を向けた。
 自分の半歩後ろをしっかりとついてくる存在を感じ、頭をもたげ掛けたその感情を持て余しながら、ドレークはクルーたちを引き連れ、自船の帰路につくのだった。
 入江に停泊している船に戻ると、◆は残っていたクルーたちに再び賑やかに出迎えられた。
「◆、話がある。荷物を置いたらおれの部屋に来い」
 しかし、ドレークがそう云って船内へと去ってしまったものだから、囲んでいたクルーは◆を見つめ、互いに目配せする。
 そして、微妙に重たい空気になった甲板から逃げるように、◆の肩をそれぞれ軽く叩き、皆散っていった。
「……もう」

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