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「わ、私は海賊ですよ? あなたは海軍兵士で――“捕まえない”とか“守る”とかそんな事云っちゃって……! あなたの“正義”は……どうしてそんな――」
「あ? お前に惚れてるからに決まってるだろ」
 スモーカーは、こめかみの髪を後ろに流しながら、当たり前だろうと云うように笑ってみせた。
 たしぎと◆――仲良くその動きを止めた。
「ほ――」
 みるみる◆の顔が、そして何故かたしぎの顔までもが赤くなっていく。
「勿論、自分の“正義”をひん曲げるような事ァしねェつもりだ。だが、惚れた女をどうして“監獄送り”に出来る?」
 フン、と鼻で笑ったところに、慌ただしく廊下を走る足音、次いでノックの音が響いた。
 スモーカーの返事を得てドアが開くと、海兵が焦ったように告げる。
「港に不審な人影を確認しました、海賊だと思われます!」
「海賊……!?」
 すると、固まっていたたしぎがバッと立ち上がった。
「わ、私が見て来ますッ……!」
 きっとこの空気に耐えられなかったのだろう。
 この部屋から上手く逃げ出す口実が出来たたしぎは、◆の恨めしそうな視線を背中に受けながら出て行った。
 ドアが閉まり、バタバタと二人の足音が遠のく。
 二人きりになってしまい、◆は場を取り繕うように、冷めたティーカップを手に取った。
「多分、ありゃァ元上司のお出ましだな」
 スモーカーは灰皿に葉巻を置き、ニヤニヤと笑う。
 “元上司”――その言葉に、◆ははたと顔を上げる。
「ドレーク船長……!?」
 そう、自分は船長やクルーに何も告げずここに来てしまったのだ。もしかしたら買い物に付き添ってくれたホップ、ライスが、店に戻ってくる途中に自分がスモーカーに連れて行かれるところを見たのかもしれない。捕まったのか、それとも“海軍の人間”だと思われたか――◆は居ても立ってもいられず、ティーカップをテーブルに急いで置くと、自分も甲板へ向かおうとソファから腰を上げた。
「おいおい、ちょっと待て」
 しかし、それは“白い煙”に阻まれてしまう。
「!!」
 もやもやと、◆の周りに立ち昇る煙に息を飲めば、目の前の煙からスモーカーが現れる。
「なァ、◆……」
 周りを取り巻いていた煙が実態を成していき、気付けば◆はソファに縫い付けられるように、スモーカーに囚われていた。
「何を……っ!」
 両手首はガッチリと掴まれ、スモーカーの膝がソファに乗り上げ、◆に跨っている。身動きが取れるのは頭くらいだ。
「この先、“ドレーク海賊団”を海上で、あるいは島ん中で見つけたとしてだ」
 何とか逃れようともがく◆を見下ろし、スモーカーは笑う。
「おれは全力で追いかけ、必ず“拿捕”する。が、◆……悔しいが、おれはお前を捕える事ァ出来ねェ。惚れた弱みってヤツだ――おれも落ちたモンだな」
 スモーカーが自嘲を含めた笑みを浮かべると、その息が◆の唇にかかった。

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