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「全員で向かっても危険だ、数人ついて来てくれ。今から軍艦の停泊する港へ向かう」
「はっ!」
 スモーカーが◆を連れて行ったと云う事は――もしかしたら、◆の過去に何か関わりがあるのかもしれない。
 そう考えると、胸の辺りがモヤモヤして、ドレークは思わず唇を噛んでいた。



「――と、以上。私が調べる事が出来た“海軍について”でした」
 手帳をパタン、と閉じた◆が、向かいに座る二人を見て云った。
 たしぎは混乱するように俯き、その表情は硬く険しい。今の今、聞いた膨大な情報を飲み込むには時間が掛かるかもしれない、と◆は思う。
「質問は無いですか? スモーカー准将」
 後頭部に手を組み、背もたれに寄り掛かっていたスモーカーは、グッと上体を起こした。短くなった葉巻を灰皿に潰し、新しいものを取り出す。
「まァ色々あるが……一つだけ」
「はい」
 手帳をしまい込みながら、◆は小首を傾げた。
 スモーカーは葉巻を一本くわえ、もう一本は指に挟み、くるくると角度を変えて眺めている。
「海軍についてそこまで知っているくせに、お前は“CP9”についてはあまり詳しくねェようだな。“政府”の事までは足を踏み込んでねェって事か」
「そうですね……政府直下の暗躍諜報機関がある事は知っていたけど、そのメンバーや戦い方までは。“政府”は“天竜人”も関わってくるから、いち海兵としての潜入じゃ辿り着けませんでしたね」
 世界政府――その深淵を覗くのなら、海兵よりも革命軍への潜入の方が相応しいだろう。
「私も知らない事が沢山ある……この“大海賊時代”はきっとそんな、皆が知らない事が山程あるの――だから私は、これからは海賊の立場からこの世界を見ていきたい」
 “空白の100年”や“グランドラインの最果て”など、普通に暮らす分には知らなくていい、知る由も無い事が、今の時代にはあり過ぎる。きっと全てを知る為には、命がいくつあっても足りないだろう。
 けれど、ただの小説家として歩み始めた時とは違い、今はその“知られざる事”も知ってしまっている。そしてまた、その先にある“知る由も無い事”を知りたいと思うのは、好奇心と云うよりも“使命”のようなものだと◆は思う。
「きっとこれから明かされていく事もあると思うし、ずっと閉ざされたままの事もあると思うの。私は知っている事と知っていく事を書き起こしていきたい……事実を突き付けるだけの文章ではなく、なるべく多くの人に読んで貰えるような物語の一部に含ませてね」
 それが何になるか分からない。が、あがいてみる。これが◆の“意地”と“信念”だった。
「……そうか」
 スモーカーは目を閉じて相槌を打つ。
「それがお前の、小説家としての“正義”なんだろう」
 二本目の葉巻をくわえ、火をつけると、スモーカーは真っ直ぐに◆を見据えた。
「海賊になろうがなんだろうが、お前はお前の“正義”を貫く事だ。そうすりゃァ、おれはお前を捕まえねェし、出来る限り“政府”から守ってやる」
 そう云うと、スモーカーは不敵に笑った。
「は――!?」
 ◆はその言葉に目を見張った。
 “海賊を捕まえない”――そんな言葉をこの男から聞くとは思ってもみなかったのだ。
 たしぎも相当驚いたらしく、隣に座るスモーカーを目を真ん丸にして凝視している。

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