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「……海賊は海賊です。けれど、私にとっても◆さんは大切な同期ですから……あくまで“◆さんの”航海の無事を祈っています――それでもいいですか……?」
 たしぎには確かな“正義”がある。名刀を悪党の手に渡らせない、悪行の為に名刀を振るわせない――彼女は“正義”を貫く者だ。けれど、言葉の中には優しさがある事を◆は知っていた。
「うん。ありがとう、たしぎ」
 いずれ対峙する事になっても、この友情は確かだと互いに思える。“その時”には、正々堂々と戦おう――そう聞こえるようだった。
「…………」
 再び話が逸れたが、スモーカーは暫く黙っておいてくれた。
「――あー……前置きが長くなったな」
 仕切り直すように云ったスモーカーは、たしぎが淹れた紅茶を酒を呷るかの如くグイッと飲んだ。
「詰まるところ、おれはお前がこの五年間で調べた事を知りてェ。勿論、今までお前が出した三作は読んでる。それでもまだ“書けない事”もあんだろう」
 そう云われ、◆はいつも肩に掛けている小さな鞄に触れた。その中には海軍の情報をたっぷり書きつめた手帳が入っている。その中の事柄を選び、著書に少しずつ取りこんでいるのだが、まだ書ききれていない事は山程ある。まだまだこれから、本を書いていく為のものだ。
 そして、“今は”まだ書けない事もある。今書いたら本当に命取りになるかもしれない情報もあった。
 それをきっと知りたいのだろう、と◆はスモーカーを探るように見つめる。
「それを知ってお前をどうの、海軍をどうのとしてェわけでも無ェ。だが、海軍として海賊を“悪”と追う限りは“正義”だと思ってる事の実態を知るべきだと思わねェか」
 昔から、◆はスモーカーを信じられる男だと思っていた。だからこそ自分の正体を明かしたのだ。そして、スモーカーにもまた“信念”がある。
「私も知りたいです。“自分の正義”を貫きたいから……」
 たしぎも頷き、真剣な眼差しが◆に刺さる。
「――二人のそう云うところが、私は好き」
 一つ息を吐いた◆は、鞄からそっと手帳を取り出した。



「――なに、◆が……!?」
 その頃、ドレークの船では、◆の買い物に付き添っていたクルー――ホップとライスが慌てふためきながら、ドレークに一部始終を説明し終えたところだった。
「ハイッ、あれは間違いなく“白猟”でした!」
 ◆達が上陸する時には忙しそうに指示を飛ばしていたドレークだったが、二人が戻った時には操舵室で航海士達と海図を前に、航海計画を話し合っていた。
 そこへ飛び込んできたホップとライスである。何事かと立ち上がり額に手を当てる。
「スモーカーか……」
 ドレークは難しい表情を浮かべた。マスクで目元が覆われていても焦っている事が皆には伝わる。
 スモーカーの意図が読めない――しかし、ここへ来て彼が出てくる事に何か引っかかる。
 ドレークは目を瞑り、息を吐いた。
「アイツが“CP9”のように行動するとは思えん。◆を人質に、おれ達を捕えようと考える男でもないだろう……」
 机の上に置いてあった自分の帽子を取り、深く被る。

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