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「名声には興味無いですし。海は大好きだから海軍もキライではなかったけど」
 スモーカーが人を褒めるなど無いに等しかったはずなので、高評価と取れるその言葉には驚いた。しかし“准将にだってなれる”は、さすがに云い過ぎではないだろうか。
「……。あくまでも、執筆の為の入隊ってか?」
 何故か少しの間を持ってそう訊ねられ、思わず◆はたじろぐ。
「そ、そうだって前にも云ったはずです」
「へェ……?」
 片眉を上げたスモーカーは探るような目つきで◆を見つめた。
「――それで? 私に何かご用があったのでは、スモーカー准将。私を捕まえる気ですか?」
 しかし、◆も負けじと見つめ返してそう云い放ったので、スモーカーは咥えていた葉巻を手に取ってから、口を開けて大笑いしだした。
「ハハハ! 上司を敬えねェのはおれに似たか、◆。今も昔も、おれにそんな態度で居た部下はお前くらいだ」
 ◆は、スモーカーが大笑いするところを久しぶりに見て、こんなに笑う人だったかと、再び目を見開く。
 そう云えば、と思い返してみる。入隊時は勿論上司に対しては敬う気持ちを持っていたが、スモーカーに対する態度と云うのは全くもって生意気だったと思う。あの頃はとにかく昇進したかった記憶があるが、スモーカーにはかなり世話になったのだ――と思い出す内に、まずい記憶に気付いてしまう。
「おれの誘いはことごとく断りやがるしな。あれだけ迫っても振り向かねェ女もお前くらいだぜ」
 ◆が思い出した事に勘付いたかのように、スモーカーはニヤリと笑った。
 その言葉にサッと顔を赤くした◆は、慌てて目を反らす。
「あ、あなたはもう上司じゃないし……私を捕まえる気なら相手にっ……」
 焦っている事を隠したくてそう云ったが、声は上ずっていて意味が無いように思えた。
「フン、おれを政府のジジイ共と一緒にすんじゃねェ――おれはお前に貸しがあんだよ」
「“貸し”……?」
 思わぬ言葉に、◆はスモーカーを振り向く。
 “貸し”、と云うか恩は今まで幾つもあったと思うのだが、それを今更持ち出す男ではないのを知っている。それだけに◆は首を傾げた。
「一つ前の島で、CP9と接触しただろう」
 スモーカーは短くなった葉巻を、傍のカウンターにあった灰皿に押し付けると、ジャケットに常備されている新しい葉巻を手に取る。
「ええ……?」
 当たり前だが、◆が危ない橋を渡る本を書いている事、そしてドレーク海賊団のクルーになった事、そして――CP9に襲撃された事は海軍は既に周知のようだ。スモーカーだけでなく、全海兵に行き渡った情報なのだろう。
「アイツらの強さは異常だ。悪魔の実の能力を抜きにしたとしても、普通の人間じゃァ無ェ並外れた身体能力を持ってんだ。そんな奴らから何故逃げられた?」
 シガーナイフで先を削いだ葉巻に火をつけ、スモーカーは咥えながら◆を見る。

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