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「ここに並んでる本と違って、内容は至って普通の物語だが、問題はその面白さと取材内容の濃さよ! おれも読んだが、面白くて時が経つのを忘れるどころか、日が経つのも忘れちまった。……三日三晩、飲まず食わず寝ずで読み終えたんだがな? その間、おれに何人かが声を掛けたが全く気付かねェ。読書に熱中してたってのさ!」
 怖ェだろう? と、店主が渋い顔をする。かなり大げさな話なので、きっとただの商売文句なのだろうと思ったが、ドレークは黙って聞いていた。
「この本にのめり込むと病気になっちまう奴も出たって話だ……まァ、これは噂だがな。そのくらい危険な本なのよ」
「さっき云った“取材内容の濃さ”とは何なんだ?」
 ドレークはそこが引っかかっていたので聞いてみると、店主は潜めていた声を更に小さくして、ドレークに囁くように身を乗り出した。
「この本は海軍の話なんだが、海軍本部の“正義”について、かーなり踏み込んでる……噂じゃァ、潜伏取材をして海軍の実態を調べて、そこからフィクション物を書いたって話だ。なかなかそんな“中枢”の事までは他の奴は書かねェ、イヤ、書けねェだろう?」
 その点については、元海軍将校であるドレークも頷ける。“正義”を着込むことを止めた理由、億超えの賞金首になったワケは、そこにもあると云えるのだ。
「だが、そんな事を書いて許されるのか? 一歩間違えば、命を狙われる可能性だってあるだろう」
 海軍本部以上に、世界政府が黙ってはいない事かもしれない。そんな内部事情は、ドレークだけでなく、一般市民だって分かりきっている。
「だから云ったろ? “フィクション”だって。この本は、どっかの世界のーーどっかの海の軍人の話、作り話さ。海軍や世界政府だって、そんな作り話如きで動いて人を消したり出来るわけじゃねェ。だから“要注意”なのさ」
 そこで、ドレークはなるほど、と納得した。
「ーーと云う事は、この作者は常に監視されたりしているのか? 野放しにはしていないのだろう」
「常に、じゃないだろうが大体何処に居るかってのは把握されてんだろうよ――“政府”にな」
 店主は乗り出していた体を退くと、胸ポケットから煙草を取り出して火をつける。
「この話、ただの商売文句と思ってるかもしれねェが本当の事さ。そうだな……最近新聞を賑わす“麦わらの一味”――そこに居る“ニコ・ロビン”は政府に危険視されてる女だが、そんなようなもんだ。その本と作者はよ」
 フーッと煙を吐くと、店主はドレークの手元の本をアゴで指す。
「どうだ? この話を聞いて読みたくなったかい? 元海軍将校サン」
 そう云われてドレークは橙色の表紙をもう一度見る。

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