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「◆の腕があれば一人でも平気な気がしますよ、おれは」
 冗談混じりにライスが云うと、ドレークは首を振った。
「油断は禁物だ。この間のように政府の殺し屋が出てくる事は無いとは思うが、何か起きてからでは困るからな。しっかりと護衛を頼む」
 そう云ってから、気を付けて行ってこい、と◆に微笑むと、ドレークはすぐに忙しそうにその場を去ってしまった。
「……逆におれたちが護衛される側になったらどうする?」
 ホップが笑いながら歩き出したので、◆もそれに付いて歩き出す。
「二人だって腕が立つでしょう? ドレーク船長の下に居るんだもの」
 ◆がそう云うと、二人は肩をすくめた。
「本当に、◆はドレーク船長に絶対の信頼を置いてるよなァ。ま、勿論みんなそうだけどさ」
 ドレーク船長に付いていきたい者が集まったのがこの海賊団なのだから、当たり前の事だったが、クルーたちはどうも、◆のドレークに対する情熱のようなものを感じているらしい。
「毎朝コーヒーを淹れて持っていってる、とコックに聞いたが」
 ホップとライスは正に“護衛”のごとく、◆を挟んで歩いていたが、徐ろにライスが訊ねる。
「そうなの。今日はそのコーヒー豆を調達したくて」
 毎朝飲むのだから、ドレークもそれなりにこだわりがあるとは思うのだが、◆も淹れる側として豆を選んでみたくなったのだ。
「ぬるくなっても良い香りのものがあると嬉しいんだけど……」
「“ぬるくなっても”?」
 ホップが首を傾げたので、◆はハッと口に手を当てた。
「――あ、ううん、ぬるくなっても良い香りのコーヒーってあるのかなって思ったの! ほら、急に香りが弱くなっちゃうじゃない?」
 取り繕うように云うと、今度はライスが笑い出した。
「ドレーク船長が忙しくて正解だったな、◆! コーヒー豆を見に行った事は内緒なんだろう?」
 一人で見たい、と云ったのはそれが理由だったのだが、もしドレークが付いて来るようならどうしようかと思っていたのだ。断る事も出来ないし、隙を付いて抜けだそうかとも考えていた。
「うん! だから、二人共ナイショでお願いね!」
 声を潜めて◆はウインクし、三人揃って悪戯な笑みで笑い合うのだった。



 大きな町だったが、コーヒー豆の店を探すのはそう難しくはなかった。
 しかし、何軒か回ったのだが、“ぬるくなっても香りが弱くならない”ものを見つける事はなかなか出来ない。
「あそこの店が最後だな」
 ライスがそう云って指差したのは、少し町はずれに位置する路地の小さな豆屋である。
「小さいけど老舗みたいだし、気に入るのが見つかるといいんだがなァ」

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