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「今回の事は気にするな。おれは、お前に暗い顔をしていて欲しくない」
「……ありがとう、ドレーク船長」
 なんとかそう答えると、ドレークは安心したように目を細め、そっと立ち上がった。そして医務室の棚にあるコーヒーセットを用意し出したので、◆も急いでそれに加わる。
「しかし、あのCP9から命を持って逃げられたと云うのは本当に運が良かったな。今頃奴らはどうしているか――ちょうど良くモヤがかかったものだ」
 小さなテーブルで準備しながら、ドレークは呑気にそう云ったが、◆は手を動かしながらも何かを考えているようだった。
「どうかしたのか?」
「あ、いいえ……! あの、今回迷惑もかけてしまったから、何かお詫びをさせて貰えないかと思って」
 取り繕うように◆がそう云えば、ドレークは苦笑する。
「迷惑も何も、おれは助けて貰った身だぞ。詫びなんて必要無い」
 しかし◆は納得出来ないらしい。お湯を注ぎながら、ムゥと唸った。
「じゃあ……じゃあ、お礼! お礼をさせて下さい。ドレーク船長だって私に服を買ってくれたでしょう? その時は私が“お詫びなんて”と云ったけれど、今回はドレーク船長が私の立場。お礼ならさせてくれますね?」
 ニヤ、と笑った◆に、ドレークは頷かないわけにはいかなかった。
「礼を云われる事などしていないのだがな……」
 困ったように笑うドレークは、◆からコーヒーを受け取る。
「そんな事云わないで。私を船に乗せてくれてから今までのお礼です」
 好意に対しては弱い事を知っているから、◆は嬉しそうにコーヒーをすすった。
「やれやれ――そんなに云うのなら、朝のコーヒーでも淹れて貰おうとしよう」
「コーヒー?」
 ドレークはベッドに座ると、◆を傍の椅子に促し、フーッと息を吹きかけながら慎重にコーヒーをすする。
「ああ、おれの毎朝の日課だ。コーヒーを一杯飲まないと目が覚めない――勿論、気が向いたらで構わないが」
 コーヒーなんて自分でも淹れられるから、しなくても構わないとドレークは云ったが、◆は、毎朝やります! と思い切り頷いた。
「じゃあ、ドレーク船長が起きる時間に淹れて、それから持って行きます……そうすれば、ちょうど飲みやすい熱さになると思うし」
 そう提案した◆に、ドレークは少し目を丸くしてから肩をすくめる。
「ハハ……お前には敵わないな。おれが猫舌だとバレたか」
「ふふっ、知ってたもの」
 ◆がそう云って微笑むとドレークは首を傾げたが、特に気にはせずにコーヒーの続きを飲んでいた。
 その後は、コーヒーに合う食べ物や好きな紅茶について話をして、CP9との出来事は無かったかのように、ふたりの時間は過ぎていった。

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