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 その後、◆が寄りたいところがあると云うのでついて行った。
 本当は、店先に居た時に不穏な気配を感じたので、真っ直ぐ船に戻った方がいいと思ったのだが、◆が店の従業員にイイ事を聞いたと云うから無理矢理戻るわけにもいかず、周囲を警戒しながらドレークはその場所へ向かった。
 そこは、海が見渡せる高台だった。
「わあ……! 綺麗ですね、ドレーク船長」
「ああ……」
 普段から飽きるほど見ているのに、上陸する島々で見る海はまた違った。場所も時間も違えば、表情をいくらでも変える大きな海原を眺め、ドレークは溜め息のように頷く。
「――この服、せっかく頂いたけど、汚したくないからあまり着れませんね」
 残念そうに云うも、◆は微笑んでいた。
 海賊に戦闘はつきものだし、船上の作業もオイルや何やらですぐに服は汚れてしまう。海賊だろうが海兵だろうが、生傷も汚れも絶えないのは変わりなかった。
「そうだな……おれがお前を守るとしても、その服は普段は着ないほうがいいかもしれん」
 ドレークは◆の戦闘を見た事が無い。クルーは彼女を強いと云うが、なんとなくあまり戦わせたくない気もしていた。
「海賊は色々大変ですね。分かっていたけれど」
 海を眺めながら呟いた言葉に嫌気が差した様子は無くも、ドレークは◆を振り向く。
「……後悔しているか?」
「まさか! だってドレーク船長の下に居られるんですよ?」
 ドレーク海賊団の仲間になれた事が本当に嬉しいらしく、そう云って笑った◆に安心する。
「──私、海が大好き。だから海賊も好き」
 ◆はまた海を見つめる。
 潮風が少し強く吹いて、◆の髪がサラサラとなびいた。先日、食堂で話していた時にも思ったが、◆の髪は思わず触れたくなってしまうくらいに、内側から出る魅力を表している。ドレークは動きかけた手を抑えながら、それを誤魔化すように口を開いた。
「だが、フダツキだぞ」
「そんな事。関係無いです、信念を持つ人は好きだから。海賊のほとんどは“それ”がある――だから海なんて云う逃げ場の無い大自然に命を置けるんでしょう?」
 そう云った◆は、ドレークの方を見た。上目遣いのその瞳に覗き込まれると、曖昧な話を出来ない気分になる。
「――全く、お前も真っ直ぐな意志を持っているな。さすがのおれも舌を巻く」
 ドレークが肩をすくめると、◆は可笑しそうに口元をきゅっと上げる。
「だから、ドレーク船長も好きです」
「――!」
 ふいに◆が零した言葉に、ドレークは思わず目を丸くしてしまった。

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