01
 黒のマントを翻して、ドレークは賑やかな市場の通りを歩いていた。
 自身の海賊団は今この島に停泊中で、今日で三日目になる。
 二日かけて必要な物資や食料の買出しを行ったが、ログが貯まるには四日目の夕刻までかかると云うので、残りはする事も無く暇を持て余していた。それで、散歩がてら街を見て回ってみようかと出て来たのだった。
 クルーたちは思い思いに過ごしているだろうが、この散歩中にはまだ逢っていない。
 時々、海賊だと思われる姿を見かけたが、喧嘩の心配は無さそうだった。
 沢山の露店が並んだ市場は、わいわいと賑わっており、四つの海から集まってきた商人達が珍しい魚や果物を言葉巧みに売り込んでいる。それを見たり聞きながら歩くだけでもドレークの暇潰しにはなった。
 骨董品などの店が並ぶ通路に入ると、本が沢山並べられた露店を見つけた。
「おっ! アンタ、X・ドレークじゃねェのかい? 元海軍将校で、今は海賊の」
 何気なく足を止めて見ていると、店主と思われる小太りの男が人好きしそうな顔で笑いかけてくる。
「ああ……そうだが」
 顔を上げ、愛想の無い短い返事をしたが、男は気にする事なくニコニコと頷いた。
「やっぱりそうかい! おれは海賊っていう奴らが好きでね、いや、無法者って奴らとは違う“漢”を感じんのよ!」
 ドレークは男の話を聞き流しながら、ワゴンの中の本を眺めていた。古本が主のようで、古びた皮の背表紙は年期を感じさせる。しかし、タイトルを見れば『食人植物の全て』や『奇形生物図鑑』に『人間臓器でグルメ』など、際どく怪しいものばかりで、ドレークは眉をひそめる。
 その様子に気付いたのか、男はニヤリと笑った。
「どうだ、なかなかの品揃えだろう? そんじょそこらの本屋や古本屋では扱ってねェ――いや、扱えねェものばかりさ! “そういう”マニアの間じゃァ、おれの名は結構有名よ」
 得意げに語る男だったが、ドレークは“そういう”ものには興味は無い。呆れて首を振ると、その露店を立ち去ろうとした。
「――、これは?」
 しかし、ふと一冊の本が目に止まった。橙色の表紙に、黒字で『正義を背負う海』とだけ書かれた分厚い小説のようだ。
 ドレークが手に取った本を見た途端、店主は先程よりももっと深く、ニタリと笑った。さすがのドレークも少したじろいだが、それを店主は可笑しそうに見ると、少し声を潜めて話し出した。
「それはなァ、本ッ当になかなか手に入らねェ代物でね……何故かって、作者が出版社に“要注意の作家”とされてんのよ。店頭にはまず並ばねェ」
「――要注意?」
 店主は頷く。

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