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「あ! 素敵な服……船長、どうです?」
◆は服屋の店頭に出ていたワンピースが気になったらしく、手に取ってドレークに見せる。
「いいと思うが、試着してみたらどうだ? その方がおれも分かりやすい」
ドレークは女性の服などは全然分からなかったが、適当な返事をするつもりもなかった。分からないながらも、◆に似合うと思うものを選んでやりたかったし、とりあえず店の奥の試着室に◆を促してやった。
レディース服の店に、黒尽くめで海賊の自分が入るのも気が引けたので、ドレークは店先の壁に腕を組んで寄り掛かり、なんとなくタイルの敷かれたストリートに視線を落として待っていた。
「…………」
まさか自分がこんな店の先で女性を待つとは思わなかったなと、一人苦笑していると、◆の呼ぶ声が聞こえ、店の中を覗いてみる。
「どうですか? 変じゃない?」
◆が試着したワンピースは、マリン風の紺色のストライプが効いたものだった。パフスリーブや白いレースがフェミニンだが、◆は割とゴツめのショートブーツを履いているので、程良くカジュアルに――程良く海賊らしい。
「ああ、よく似合う」
「本当?」
表面上の言葉ではないかとドレークの顔を覗き込むも、あまり見せない柔らかい表情で頷くものだから、◆は少し顔を赤らめてしまった。
「じゃあ、ドレーク船長の言葉を信じてこれにしますね! 着替えて来るから、もう少し待っていて下さい」
クルリと回った◆はそう云って、カーテンの奥へと再び消える。
それを見送り、ドレークはそのまま店の奥のレジへ向かった。
見た目が“海賊”なドレークとのやり取りが珍しかったのだろう、先程からの二人の様子を見ていた若い従業員が、こちらを窺うように見つめてくる。
「あの娘の服は幾らだ?」
「へっ……あ、はいッ! ええとあのワンピースは――」
緊張した面持ちの従業員に代金を渡して、ドレークは外に出た。
暫くすると、慌てた様子の◆が店から出て来る。手にはショップバッグを持っている。
「ドレーク船長! 代済みだって云われたんですけど……もしかしなくても船長が?」
困った表情でそう云う◆の様子をあまり見た事が無かったので、ドレークは可笑しく笑ってしまった。
「気にするな、おれのせいで服がダメになったんだ」
「そんな――」
ドレークは宥めるように、◆の頭を優しく撫でてやる。
「さ、行くぞ」
そう云って歩き始めたドレークの後を、◆は慌てて追いかけて来る。その隣に追いつくと、◆はドレークを見上げた。
「ありがとうございます、ドレーク船長。とっても嬉しい……!」
ふわ、と笑ってショップバッグを大事そうに抱えた◆を、ドレークは横から覗き見る。
「……」
ぐ、と胸を鷲掴まれた感じがして、ドレークはなんとなく明後日の方向に目をやり、小さく咳払いをした。
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