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 ドレークがそう云うと、皆肩をすくめて笑った。
「仕方ないですよ、◆の本を読んでいらしたのでしょう?」
 ◆の本をドレークが初めて読んだ時の事は全員分かっているので、気付かないのは当然だと云うのだが、ドレークは夢中になってしまうものだと分かっていながら、読みたい衝動が抑えきれずに本を開いてしまったのだ――船長として軽率な行為だったと反省していた。
「……◆は何処に?」
 ふと尋ねれば、航海士が、ああと声を上げる。
「食堂で紅茶を淹れているところを見ましたよ。食堂の風通しのいい席が好きだとか云ってたので、きっとそこに居るかと」
「そうか――」
 ドレークは頷くと、早速食堂へ向かう為にドアノブを握ったが、クルーの方を振り向いた。
「本当に皆に迷惑をかけたな。島に着いたら、労いの席でも開かせてくれ」
 その言葉でワッと沸いた様子にドレークは目を細め、マントを翻すと、入ってきた時と同じように静かに操舵室を出て行った。



 航海士の云った通り、◆は食堂に居た。
 風が心地良く通ってゆく席で、一人ゆっくりと紅茶を飲みながら、時折手帳に何かを書き込んでいる。そよそよと風に揺れる髪が、窓から入る陽によってきらきらと光り、なんだかずっと見ていたくなるような光景だ、とドレークは思った。
「◆」
 それでも、その静寂を破って声を掛ける。
「ドレーク船長!」
 顔を上げた◆が“待っていた”と云うように、笑みを作ってくれた事に少しホッとしながら、ドレークは◆の座る席へ歩み寄る。
「もう読み終えてしまったの?」
 真っ先に謝ろうとしていたのに、先に◆に口火を切られてしまったので、苦笑しつつドレークは頷いた。
「◆に“楽しめ”と云われたからか知れないが、自分から“この本を楽しもう”と思って読み始めたら早かったな」
 そう云うと、◆は嬉しそうに顔を綻ばせ、向かいの席へドレークを促す。
「良かった! ちょっと不安だったんです、また海軍のお話だしウンザリするかと思って」
「そんな事は無い。本当にリアルな物語だな、こちらが少々ヒヤッとするほどだ」
 椅子に腰掛けながらドレークはそう笑ったが、本題を忘れてはいけない、と佇まいを直し、咳払いをして話題を変える。
「そうだ、◆――おれが読書中に敵襲があったと聞いた。その際、お前の冷静な判断と指示で、怪我人も無くスムーズに戦闘を終えられたと」
 ドレークは静かに頭を下げた。
「すまなかった。おれの軽率な行為を許してくれ」
 すると、フフッと柔らかい声が落ちて来て、ドレークは顔を上げる。

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