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「私の書いた本です。三冊出してたから、ドレーク船長の手元にあるのと合わせて全部」
「……“正義のたゆたう海”、“正義と悪を秤る海”……それに“正義を背負う海”――か。テーマは常に“正義”と“海”なんだな」
 受け取った二冊は、露店で見つけた◆の本と同じくシンプルな装丁だった。が、少し違うのは、それらが綺麗だと云うところだ。なんとなく、これらは◆の保存用なのではと、ドレークは顔を上げた。
「これはお前のではないのか? 大事に保存していたように見えるが……」
「いいの、自分が今までに書いた本の事は全て頭の中に入ってるし……それより、お気に召すかは分からないけど、ドレーク船長に読書を楽しんで欲しいんです。海軍の話だけどね」
 クスッと笑った◆は、氷で薄まった酒を静かに飲む。
 それを見ながら、ドレークは“シンプル”以外の、三冊の共通点に気付いた。
「お前は橙が好きなのか?」
 一冊は黒い表紙に橙色のタイトル、もう一冊は紺色の表紙に橙色のタイトルで印刷されている。そして、露店で買った本は、橙色の表紙に黒字の印刷だった筈で、全てに橙が使われている――。
「えっ……ええ、そう。私、橙色が好きで……橙には黒とか紺が映えるから」
「ほう……」
 ドレークはその本を暫く眺めていたが、二冊を重ねると、ポンと手を置いた。
「礼を云おう、◆。お前の大事な作品だ、大事に読むつもりだ――が、夢中になってしまうのは分かっているからな」
 ◆の本を読むと、声を掛けられても時間が経っても、まるで気付かない事は一冊目で体験済みだ。停泊中ならまだしも、何が起こるか分からないグランドラインで、航海中に本を開くのは危険過ぎる気がする。
「ふふっ、すぐじゃなくても全然いいです。でも忘れないで下さいね……私はドレーク船長に楽しんで欲しくて、その本を渡した事」
 そう美しい笑顔が悪戯な表情に変わると、敵わないな、とドレークは肩をすくめて笑った。



 空は快晴。風は程良く――順調な航海である。
 数日で、◆はクルーに打ち解け、当直や船での様々な仕事もすぐに覚えた。あまりに飲み込みがいいし、船に慣れているようなので、クルーは不思議に思ったほどだ。
「ねえ、ドレーク船長見なかった?」
 キッチンで食後の紅茶を淹れていた◆は、通りかかったクルーに声を掛ける。
「いや? そう云えば昨晩に、航海士が定時連絡を船長室にしに行ったが、部屋の中からは返事が無かったと云ってたな。朝食にも顔を出さないし、妙だとは思うんだが」
 船長は時間をきっちり守る人だから、と帽子を被り直しながら云う。
「朝食を食べてないの?」
「食堂では見かけてないからな、多分そうだよ」

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