12
 歓迎ムードのクルー達が揃って云うので、◆も嬉しそうに笑っている。そんな様子を見て、ドレークは安堵の息を吐いた。
「ああ、そうだな。今夜は宴にしよう」
 ドレークが頷くと、クルー達はワッと沸き、すぐさま準備だと動き始めた。
「良かった、皆お前を歓迎しているな」
「ふふっ……本当に私を連れて来て良かったのか不安だったんでしょう? でも大丈夫。そんな不安も吹き飛ばすくらい、きっと役に立ってみせます」
 自信満々にそう云ってみせる◆に、ドレークも思わず微笑む。そして◆の頭をさらりと撫でた。
「そうだな、期待している」
 ドレークの言葉に、◆はにっこりと頷いた。
 その夜、宴になったドレークの船の上では音楽家による演奏や、クルー達の合唱、飲み比べなどがあちこちで起きていた。
 甲板の一角で静かにドレークと◆は酒を飲んでいたが、◆は時々手帳を取り出し、何やら書いている。
「――取材か?」
「そう。ドレーク船長の船だから、宴と云えどもっと静かなものかと思ったら、そうでもないんですね……みんな楽しそう!」
 一通り書き、◆は手帳をしまった。
「ハハ……お前はおれを買い被り過ぎだぞ。楽しい事なら何でも好きなんだろう、海賊と云うのは」
 ドレークはそう云うが、その云い方はまるで他人事のようである。
 ◆は首を傾げた。
「ドレーク船長も“海賊”でしょう?」
 すると、ドレークは痛いところを突かれたと云う風に苦笑いを浮かべ、グラスの酒を一口飲む。
「……おれは海兵から海賊になる時に自分に課せた使命がある。それを果たさない限り、おれが“楽しむ事”は許されないと思っている」
 グラスの中の氷を小気味いい音で揺らしながら、少し離れたところで盛り上がっているクルー達を見つめ、目を細めた。
 自分は楽しむ為に海賊になった訳ではない。その決断の理由を常に忘れない為にも、胸の中に引いた一線があるのだ。
「ふーん……やっぱり変わらないのね」
 独り言のような◆の声に振り向けば、肩をすくめて笑っている。
「人には人生を楽しむ権利があります。何処に小説を読んではいけない人が居るの? 何処に物語を読んで笑ってはいけない人が居るの? ドレーク船長だって、私の本を読んで楽しんでくれるでしょう? 使命がどうとか関係無いです、あなたは……“今は”海賊なんだから」
「……」
 ドレークが何も云えずに黙っていると、◆は傍に置いてあった鞄から、ゴソゴソと何かを取り出した。
「ドレーク船長、これを貰って欲しいのだけど」
 そう云って、ドレークの手を引き、その上に乗せたのは二冊の本だった。
「……これは?」
 グラスを置き、両手でその本を持ってから、◆を見る。

- 12 -




←zzz
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -