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「……」
 海は広い。一期一会とはまさにそうだなと、ドレークは握られた手を見つめた。
「……お前は、自分の信念を貫く為におれの船に乗り、海賊になりたいと云うのだな?」
「はい……!」
 ◆は美しい。けれど、その外見は内に秘めた強い想いが更に際立たせている。そして、ドレークはそんな◆との出逢いを、みすみすここで終わりにする事もあるまい、と感じていた。
 逢ったばかりの女小説家を船に迎えるなんて、クルーは何と思うだろうか――と、一瞬ドレークは頭を巡らせる。けれど、自分が決めた事ならば信じてくれる仲間だとも分かっている。
「そうか……」
 ドレークは◆の目を真っ直ぐに見た。◆もまた、ドレークの目を真っ直ぐに見つめ返す。
「――分かった。お前をおれの海賊団に迎え入れよう」
「……ッ、本当!?」
 ドレークの頷きに、◆の端正な顔立ちが綺麗に笑顔を作った。
「ありがとうございます、ドレーク船長っ!!」
 ◆はつい先ほどと同じように、ドレークの胸へ飛び込む。
「あ、ああ……」
 自分でもどうかしているとは思うが、◆の持つ独特な魅力がそうさせるのか何なのか、普段の調子が出ないな、と自嘲気味に首を振る。抱きつかれる事にすら戸惑うなんて、まるで少年だ。
 自分の動揺を隠すようにドレークが船の方へ視線を逸らすと、◆はそれに気付いているのかいないのか、クスリと笑った。
「――さて。そろそろ戻らないと、いい加減にクルー達が痺れを切らす頃だ……お前はそのまま海へ出られるのか?」
「私は旅の人間だから、いつでも身一つです!」
 提げた鞄をポンと叩き、◆は元気良く頷いた。
「フフ、そうか……では行くぞ、◆」
「はいっ!」
 ◆がゆるりと離れれば、ドレークはふと我に返る。何だか魔法にかかっていた気さえしてしまうくらいに、自分でも思いもよらない決断をしてしまっていた。
 しかし、嬉しそうに船へと歩き出す◆の後ろ姿を見ると、途端にそんな事はどうでもいいのではないかと思えてしまう。
「厄介な小説家に出逢ってしまったな……」
 ◆に続いて歩き出しながら、ドレークは苦笑混じりにそう零すのであった。



「ドレーク船長! おかえりなさい!」
 船へ戻ると、クルー達が口々に出迎えてくれる。しかし、後ろに居る◆の姿を見ると、皆一様に“?”を頭上に浮かばせた。

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